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2022.02.15
更新日:
2017.05.23
全6回 【連載】徹底解説!「強いIT部門」を作るための業務改善TIPS 《連載:第6回》 IT部門の業務改善の真髄、「継続的サービス改善」の考え方とは?
本連載記事では、IT部門の使命・役割としてITサービスを安定的に提供するための考え方や具体的な取り組みについて紹介してきました。しかし本当に欠かすことができないのは、そうした取り組みを「継続的に改善する」プロセスです。この継続的サービス改善はITILでも提唱されており、いわゆる“PDCAサイクルを回す”ことがこれに相当します。今回もクレオのITサービス管理エキスパートの井上誠が、事例を交えながら継続的サービス改善の考え方について紹介していきたいと思います。
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継続的な改善に不可欠なPDCAサイクル
本記事の読者の皆様であれば、業務の生産性向上、あるいは製品・サービスの品質向上に取り組むための手法である「PDCAサイクル」はご存じでしょう。
PDCAとは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」の頭文字をつなげたもので、これらの4つのプロセスを繰り返すことによって業務を継続的に改善していくという考え方です。品質マネージメントシステムのISO 9001、環境マネージメントシステムのISO 14001といった国際標準規格の中にも、PDCAサイクルが取り入れられています。
継続的な改善の重要性は、そのままITサービスにも当てはまります。ビジネス部門の業務計画に基づいてITサービスを用意し(P)、そのITサービスを利用して業務を遂行し(D)、ITサービスが業務に効果をもたらしているかを評価・測定し(C)、問題がある部分を改善し(A)、それを次につなげていくというサイクルを回すというものです。
そのPDCAサイクルを、ITコンシェルジュやサービスデスク、アプリケーションマネジメントサービス、ITマネジメントサービスが問題を集約して業務運用を統合したシステムに改善し設計し直すことで、確実に回していくことが実現すると考えられます。
「IT部門が継続的にITサービス改善することは、経営者やビジネス部門にとっても大きなメリットになります。例えば、ITサービスの提供スピードを短縮すれば業務の効率化を実現することができます。また、ITサービスの品質を向上すれば、それが業務の品質向上にも直結することになります」
「C」から始めることがカギ
では、継続的サービス改善に取り組むには、どこから始めればよいのでしょうか。PDCAサイクルでは「P(計画)」のプロセスが最初にありますが、何もないところから計画、あるいは目標設定をすることは非常に困難です。そこで井上は「まずは測定することが重要」と提唱します。
「継続的サービス改善に取り組むにあたっては、『測定が命』といっても過言ではありません。この測定は、PDCAサイクルで言うところの『C(評価)』に相当します。測定を行わなければ、どの部分に問題があって改善すればよいのかわかりません。そもそも計画した目標設定が妥当であるかも判断できません。これは特定のサービスでなく、業務を改善する場合も同じです。今の組織力を測定し、現状を把握できてこそ目標を設定することができます。つまり、最初に測定しないと何も始まらないのです」
まずは現状分析(測定)を実施してから目標を設定して業務を実行します。そして実行状況を再度測定し、目標とのギャップをアセスメント(評価)して対策を講じるとともに、次の目標を設定します。このサイクルを繰り返すというわけです。
この現状分析をするためにまず、インシデント管理と問題管理においてサービスデスクの段階で情報を一元管理し、現在の組織の業務の問題点と課題を浮き彫りにしていくことから「C」がスタートします。
【ITIL導入事例】正確な予測の目標設定が可能に
ここで、継続的サービス改善について具体的な事例を挙げて見ていきましょう。
C社の営業部門では、顧客管理、商談管理、案件の進捗管理、売上管理などの業務を一元化するために、SFA(営業支援)とCRM(顧客管理)システムを導入しました。表計算ソフトを利用して各営業社員が個別に管理する従来の方法では、業務生産性に課題があるという判断のもとに導入したものでした。
しかし、SFA/CRMシステムを導入したとしても実際に利用されなければ意味がありません。そこでC社は、SFA/CRMシステムの利用を定着させるために、各営業社員が個別に管理業務を行う場合と、システムで統合管理・情報共有する場合の効果を測定することにしました。入力業務や処理にかかる時間を計測して労働時間と人件費に換算してコストを比較するとともに、一元的な実績管理に基づいて分析した予測と、従来からの営業社員の経験に基づいた属人的な予測の正確性を比較しました。比較の結果、コスト面でも予測の正確性でもSFA/CRMシステムが優位であることが明らかになり、その事実を提示して営業社員の同意を得たうえでSFA/CRMシステムの利用を推進しました。
さらに一方的なSFA/CRMシステム利用の押し付けではなく、誰もが便利に利用して業務効率化に役立てられるように、システムの操作性や使い方についても効果を測定しながら定期的に見直しています。これらの取り組みにより、正確な予測による売上目標・事業計画の立案が可能になっただけでなく、業務の生産性向上にもつながりました。
このように、システムが各営業社員で縦割りに分断・重複して情報がサイロ化されてしまいロスが多い状態を、リソースプール型に集約することで末端から経営層までわかりやすい状態に解決し、数千万単位のコスト削減が可能となります。
【ITIL導入事例】社内サービスデスクの改善にも役立つ
営業部門のSFA/CRMシステムにおける施策が成功したのを受け、C社のIT部門でもサービスデスク管理業務にも同様の施策を取り入れることにしました。
C社のサービスデスク管理でも、営業部門のようにもともとは表計算ソフトを使って管理していましたが、この方法ではエスカレーションを含むインシデント対応に時間がかかり、対応処理後のノウハウを蓄積・共有することも困難でした。
そこでITサービス管理ツールを導入し、サービス品質向上に取り組むことにしたわけです。最初に従来の業務でのインシデント対応時間や件数を測定し、それを基にして時間短縮目標を立てました。その後は実績を計測し、ツールを活用して業務を改善していくというサイクルを回しました。
その結果、C社の狙い通りに継続的改善の好循環が生まれました。またノウハウを蓄積・共有したことにより、インシデント発生後に対処していたリアクティブな対応だけでなく、インシデント発生前に未然に防止するプロアクティブな対応が可能になるという効果も生まれました。
これは、ITIL導入が企業のIT部門に限らず、業務部門や管理部門、サービス部門においても一定の効果を発揮しIT運用の好循環を生み出せるというメリットに他なりません。
これこそがITILが提唱する「継続的サービス改善」
ITILエキスパートの認定資格を持つ井上は、測定プロセスの重要性を次のようにまとめます。
「業務の生産性向上、品質向上に取り組むには、まず初めに現状の組織力・事業力を測定しなければなりません。今の組織力・事業力を測れてこそ目標設定が可能になり、その目標の実現を目指して施策を打つことができます。そして目標の達成状況を計測して、ギャップを埋めるための施策を考えて実施します。この測定、実施を繰り返すことが業務の生産性向上、ひいては品質向上につながります。このような取り組みを持続させることこそが、ITILが提唱する『継続的サービス改善』なのです。もちろん、継続的サービス改善にはITの力が欠かせないので、ここにIT部門の知見が活かされることになるわけです」
ITサービス管理におけるベストプラクティスを集約したITILは、あらゆる企業・組織の業務改善に役立つさまざまなヒントを提示してくれます。そのITILを読み解き、それぞれのビジネス部門、IT部門が抱える課題の解決につながる提案をするのが、ITILエキスパートの役割です。ITサービス管理の運用はもとより、さまざまな業務の改善を目指したいとお考えであれば、こうしたITILエキスパートに相談してみてはいかがでしょうか。
- 井上 誠株式会社クレオ
- 2002年から、さまざまな業務システムSEとしてキャリアをスタートし、100社を超える企業システムの開発プロジェクトに携わる。数多くのIT部門を見てきた経験とITILやITサービス管理への高い知見を生かし、現在はITILエキスパートを取得し、クライアントの課題解決に日々尽力するITサービス管理のエキスパートとして活躍。