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IT部門をビジネスクリエイティブ集団に

システムの安定稼働、コスト削減、コンプライアンス強化など、IT部門の「作業」は年々増加しています。
しかし、新規事業や新技術の立ち上げなど、企業力強化のうえで不可欠なものは、IT部門の「知恵」です。
IT部門がビジネスクリエイティブ集団に生まれ変わるためのヒントやトレンド情報をご提供いたします。

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2017.04.25

全6回 【連載】徹底解説!「強いIT部門」を作るための業務改善TIPS 《連載:第4回》 業務変革に導いたIT戦略の秘密とは。ITサービス管理の改善が企業を変えたユースケース【製造業A社の場合】

IT部門の使命は、ビジネス部門に必要なITサービスを安定的に提供し、会社に貢献していくことですが、さまざまな課題が立ちはだかり、実際にうまく機能しない例も散見されます。そんな課題解決の指針のひとつが「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」です。今回は、ITILに精通したクレオのITサービス管理エキスパート 井上誠がIT部門のサービス改善のユースケースを紹介していきます。

ITサービスを安定的に運用管理する指針

いまや企業のビジネス部門にとって、ITは事業戦略を遂行するために欠かせない重要な役割を担っています。そのためIT部門には単にシステムの構築・運用だけでなく、ITの立場からビジネス部門が必要とするサービスを提供し、運用管理することが求められます。

このようなビジネスに貢献するITサービスを安定的に運用管理するための指針として、標準的に用いられているのが「ITIL」です。ITサービス管理のベストプラクティスを体系化したガイドラインとして、現在は「ITIL 2011 Edition」が最新版となっています。

このITILをITサービス管理の業務にうまく適用することができれば、IT部門が抱えるさまざまな課題を解決することが可能です。実際に世界中の多くの企業や組織がITILによってIT部門の改革に取り組み、成果を上げています。

では、日本の場合どうでしょうか。企業のITサービス管理の改善に長く携わってきた井上が、実際に課題解決に取り組んだユースケースから、IT部門がどのように改善していけばよいのか、そのヒントを探ることができます。以下に見ていきましょう。

拠点単位の縦割り組織が抱える課題

製造業のA社は、全国に複数の生産拠点(工場)と支社・営業所を持つ企業です。A社は古くからIT化に取り組み、ホストコンピュータによる生産管理、販売管理などの業務システムを拠点単位で構築・運用してきました。

順調に事業規模を拡大してきたA社でしたが、国内市場の成長が徐々に鈍化するにつれ競合他社との競争が激しさを増しています。厳しい経営環境を立て直すために、A社は中期経営計画の中でITを活用したビジネスイノベーションに取り組むことにしました。

ところがA社の各部門は長年、拠点単位の縦割り組織になっており、業務システムもそれぞれのビジネス部門内で個別に構築された、いわゆるサイロ化された状態でした。また、IT部門とビジネス部門とのコミュニケーションも円滑ではなく、IT部門が自社内のすべてのITシステムを把握できていないという状況でした。

このような旧態依然とした組織だったため、ITを活用したビジネスイノベーションに取り組もうとしても、ITの立場からビジネスを理解し、提案できる状態ではありませんでした。さらに縦割り組織の弊害により、異なる拠点の同一業務に対して、似たようなシステムを個別に導入するなど無駄なコストが発生するという問題も起きていました

経営戦略と事業戦略を踏まえたIT戦略を企画

このようなIT部門の課題に気付いたA社でしたが、どのように解決すべきか、なす術がありません。このような場合、A社は一体どうすればよいのでしょうか。井上は次のように話します。

「問題は、全社のITを横断的に見る組織(役割)がないことにあります。ビジネスを横断的に見ることができ、IT戦略を立案することができるメンバーを各拠点のビジネス部門とIT部門の有識者から集め、『IT戦略室』を設置し、役割を明確にすることが必要です(図1)。IT戦略室は、経営戦略と各ビジネス部門の事業戦略を踏まえたIT戦略を企画する『ITサービス戦略管理』の役割を担います」

井上がITILの視点から提案したのは、ビジネス部門とIT部門を横断的に見るIT戦略室を組織化することでした。もちろん、その役割は戦略立案だけではありません。

「IT戦略の企画だけでなく、全社のITサービスを、検討中・開発中も含めてリストとして保持する『サービスポートフォリオ管理』を行います。こうすることで、経営計画に合致するITを活用したビジネスイノベーションが実現され、課題であった似たようなシステムの重複といった無駄な投資を排除するようなアセスメントが可能になります」

無駄を排除する需要予測が可能に

このように、ITサービス戦略管理の役割を担っていくために、組織横断の部署の存在は大きなものとなります。実際の配置に際しては、IT担当役員直属の組織として設置するとよいでしょう。IT戦略室の役割は主にITサービス戦略管理ですが、同時にA社が合わせて考えておくべきなのが、「需要管理」「事業関係管理」です。

A社ではこれまで、ITサービスの需要管理を各担当者の勘や経験に頼っていたために、さまざまなトラブルが発生していました。例えば、事業部門が期間限定キャンペーンを打った際に、システムに想定していたキャパシティを越えるアクセスが発生してしまいシステムに遅延が発生。結果としてSLA(サービス品質保証)が守れなかったことがありました。

こうした事態を防ぐのが、IT戦略室です。ビジネスの活動パターンから求められるITリソースを予測・識別する需要管理を実施していくことで、システムに負荷がかかってもSLAを守れる最適なITサービスを設計できるようになります。逆に、過剰すぎるリソースを持つITサービスを見直し、コスト削減も実現できます。

もちろん、上記の需要管理を行う上では、IT部門がビジネスを理解しておく必要があります。ここは、ビジネス部門とIT部門の間を橋渡しする事業関係管理を行い、ビジネス部門のニーズを考慮しないままITの整備を行うといったIT部門の“独断専行”を防ぎ、常に変化するビジネス部門の要求を満たすITサービスを最適なタイミングで提供することも可能になるのです。

このほかに、A社がIT戦略室の重要な役割としたのが「ITサービス財務管理」です。これはITサービスにおけるコストや収益の算出、および回収のプロセスであり、ITILでは「組織の財源の健全な受託責任を遂行する職務」と定義されています。これには実際にどのような適用の仕方があるのでしょうか。

A社では、多くの企業で行われているように、グループウェアの機能を使って会議室の予約を行ってきました。しかし、予約は基本的に“早い者勝ち”だったため、利用するかどうかわからなくてもとりあえず会議室を押さえておくという社員が増え、結果的に実際には利用していない会議室が目立つようになりました。この結果、今度は空いている会議室を予約しないで利用する社員が現れるなど、会議室予約機能は次第に有名無実化していきました。

この状況に対して効果を発揮するのが、IT戦略室が会議室の利用料をビジネス部門側へ課金するという方法があります。課金することにより、需要をコントロールすることができ、この課題は一気を解決することができます。システムで手軽に会議室が予約できる分、そうしたサービスには対価を伴う――。「需要管理」「ITサービス財務管理」の考え方に基づくものです。

サービスストラテジの適用だけでも大きな効果

今回取り上げた「ITサービス戦略管理」「サービスポートフォリオ管理」「需要管理」「事業関係管理」「ITサービス財務管理」はいずれも、ITILの5つのライフサイクルのうちの「サービスストラテジ」に含まれるものです。

ITサービスを提供する際にどのような領域でどのようなサービスを実現するのかを戦略的に検討するフェーズにあたり、ここに注目してITサービスの改善に取り組むだけでも、非常に大きな効果を発揮することを理解していただけるでしょう。

次回は、小売業B社の例に取り上げながら、戦略の、実際にITサービスの設計、運用などにおいて生じる事業およびIT部門の課題を示しながら、その解決の手立てを紹介していきたいと思います。

井上 誠株式会社クレオ
2002年から、さまざまな業務システムSEとしてキャリアをスタートし、100社を超える企業システムの開発プロジェクトに携わる。数多くのIT部門を見てきた経験とITILやITサービス管理への高い知見を生かし、現在はITILエキスパートを取得し、クライアントの課題解決に日々尽力するITサービス管理のエキスパートとして活躍。

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