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IT部門をビジネスクリエイティブ集団に

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2017.05.09

全6回 【連載】徹底解説!「強いIT部門」を作るための業務改善TIPS 《連載:第5回》 「設計・移行・運用」を改善するITサービス管理。ユースケースに見るITIL適用の効能とは【小売業B社の場合】

 

どの企業のIT部門も、程度の差こそあれ何らかの課題を抱えているものです。そうした課題の中には、ITサービスを運用管理するための指針となる「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」を参考にすることで解決できるものもあります。前回に引き続き、今回もクレオのITサービス管理エキスパート 井上 誠が、ある企業のユースケースからITサービスを改善していく方法について紹介していきます。

“寄せ集め”のIT部門が抱える課題

小売業B社は、複数業態の専門店を全国に多店舗展開する典型的なチェーンストアの運営会社です。現在は従来からの実店舗だけでなく、インターネットのショッピングサイトを運営しており、両方の販路をシームレスに融合させるオムニチャネルにも力を入れようとしています。

そうした施策を実現するには、バックグラウンドにあるITシステムを統合することが不可欠です。B社ではITによる事業強化を推進するという経営戦略のもと、ITシステムを全面的に刷新することにしました。

ところが、B社のIT施策には解決すべき問題がありました。同社のIT部門は基本的に財務会計や人事給与など全社の基幹業務システムの運用管理を専門業務としています。各業態の事業部門が利用するITシステム/サービスはそれぞれの部門が個別に導入・構築し、ショッピングサイトの運営は新事業開発部門が担当しています。つまり、あらゆるITシステム/サービスが完全に独立しているため、IT部門が全社プロジェクトを主導することは困難でした。

そこでB社はIT部門をただちに改組し、各事業部門のIT担当者とショッピングサイトの運営担当者を新生IT部門に統合しました。しかし、単に人を寄せ集めただけでは、何の問題解決にもつながりません。社内でどんなITシステム/サービスが提供されているのか、どのように資産、構成、変更を管理しているのか、全体を把握できている者はおらず、プロジェクトはスタート直後からつまずいた格好でした。

メンバーの役割を定義・明確化する

プロジェクトを進めるためには、まずこうした状況をなんとかしなければなりません。ITサービスの改善活動に豊富な経験を持つクレオの井上がここで注目したのが、IT部門の業務のうち「設計」「移行」「運用」の各フェーズ ―― ITILで言うところの「サービスデザイン」「サービストランジション」「サービスオペレーション」。これらを重点的に改善するということです。

井上がまず提案したのが、プロジェクト構成メンバーの役割と職掌を整理することです。

「B社のプロジェクトは、IT部門だけでなく各事業部門や管理部門からの代表者など参加メンバーが多く、会議では知識の少ない管理部門がITサービスの戦術レベルまで意見を述べて混乱を招くということも起きていました。なぜこういうことが起きるのかといえば、メンバーの役割が整理されていないことが大きな要因です。こうしたB社にはRACIモデルを用い、各メンバーの役割を定義し明確にすることが有効となります」

RACIとは「実行責任者(Responsible)」「説明責任者(Accountable)」「協議先(Consulted)」「報告先(Informed)」の頭文字を合わせたもので、プロジェクト参加メンバーのそれぞれの役割をマトリックスに分類する手法です。このRACIモデルを適用して役割を明確にしたことで、「無責任な意見」「責任の転嫁」といったプロジェクト推進の阻害要因を取り除くことができるのです。

サービスカタログ管理でITサービスを見直す

続いて井上が提案するのが、プロジェクトを円滑に進めるためのITサービスの「設計」「移行」「運用」に関するプロセスの改善です。まず、設計のフェーズにおける重要なプロセスとして助言したのが「サービスカタログ管理」。これは、事業部門に提供するすべてのITサービスを棚卸ししたうえでカタログとして管理するものです。

「B社ではこれまで、各事業部門が個別にITシステムを構築してきた弊害から、社内でどんなITサービスが提供されているのかわからず、人づてに聞いてようやく知ることができるという状態でした。そのため、まずはITサービスをカタログ管理する必要がありました。カタログ管理によって、重複するサービスを合体したり不要なサービスを廃止したりしてITサービス管理をスリム化するとともに、事業部門とIT部門との間のズレをなくし、より良い関係を構築することができるのです」

サービスカタログ管理とともに、井上が推奨するのが「サプライヤ管理」です。B社のITサービスは、それぞれ別のSIベンダーに構築・運用を委託しており、同様のITサービスでも契約内容やSLA(サービス品質保証)が異なるなどの課題がありました。そこでサービスカタログ管理でITサービスを整理するのと同時にサプライヤとの契約を見直し、事業部門のニーズとSLAを整合させていく必要があるのです。

システム化やツール導入で管理を便利に

次に井上は、ITサービスの移行フェーズにおける「ナレッジ管理」「資産管理」「構成管理」「変更管理」の各プロセスを再構成することが必要だと訴えます。

「B社はナレッジ管理を担当者任せにしていたために、どこにどんなナレッジが蓄積されているのかさっぱりわからないという状況でした。そこでお勧めしたのが、情報を容易に検索できるようにする管理の仕組みを構築すること。効率的に行うには、実際に何らかのITツールを導入する必要がありますが、これにより適切なアクセスコントロールを施しながら、すぐに必要な情報を引き出せるようになります」

資産管理や構成管理については、B社ではITシステム/サービスや組織によって管理の仕組みがバラバラでしたが、ITサービス管理ツールの導入がその解消に導きます。

「ITの資産管理や構成管理は、もちろんツールを導入すればよいというわけではありません。資産・構成アイテムを現実的に管理し得る粒度を決めて実施することをお勧めしています。極端な例として、IT資産であるPCの台数・状態の1台1台の管理は必要でも、LANケーブル1本1本の使用状況まで管理することは必ずしも必要はありません」

変更管理も同様にツールが役立ちます。B社では「声が大きい事業部門」の変更要求を先に対応する傾向があり、本来取り組むべき優先順位を見失っていたそうです。そこにシステムによって変更要求に関連するプロセス情報を追跡できるようにしたことで、事業ニーズの優先度を考慮した変更管理が可能になるのです。

さらにB社では、未承認のリリースが横行していたり人的ミスに起因するリリースのトラブルが発生したりといった「リリース管理」「展開管理」に関する課題もありました。

「テスト、リリース、展開についても、ツール導入やシステム化によって自動化できる部分は自動化することが望ましいと言えます。もちろん、自動化された内容が正しいのか統制する仕組みが必要。これが過不足なく実施されていなければ、自動化が逆に弊害をもたらすこともあるので注意が必要です」

運用業務の大幅な効率化を実現

最後に井上がアドバイスを送ったのが、運用フェーズの改善です。B社は、ユーザーからの要求に対応するために、メールやWeb、紙によるワークフローなどさまざまな手段で対応しています。「イベント管理」「インシデント管理」については、ツールを使ってアラート監視は実施しているものの、エスカレーションはメールで行われており、さらに上層部へのエスカレーションが的確に実施されていないなどの課題もあります。この領域の設定が曖昧であれば上層部への報告も遅れ、大規模なインシデントに対する会社の対応の遅れにつながり、社会的信頼を失ってしまうことさえあります。さらに「問題管理」についても、設計フェーズにおけるナレッジ管理と同様に担当者任せになっている点も課題でした。

これらの課題を解決するための策としては、ユーザーからのサービス要求窓口の一本化、階層エスカレーションの自動化、ワークアラウンド(暫定対応)と恒久対応のナレッジ作成が有効です。こうしたところから改善活動を進め、B社は運用業務の大幅な効率化を実現したといいます。

今回取り上げたものは、ITILの5つのライフサイクルにおける設計、移行、運用のフェーズの一部ではありますが、いずれにしても改善のポイントはあらゆるところに隠れています。ぜひこれを機に、改めてITILの観点から自社の業務を見直してはいかがでしょうか。

次回では、これまで触れてきたITILのライフサイクルのうち、最後の「継続的サービス改善」について解説します。このフェーズは、多く語られることはありませんが、IT部門が強くなるために欠かせない部分であり、そのエッセンスを紹介していきたいと思います。

井上 誠株式会社クレオ
2002年から、さまざまな業務システムSEとしてキャリアをスタートし、100社を超える企業システムの開発プロジェクトに携わる。数多くのIT部門を見てきた経験とITILやITサービス管理への高い知見を生かし、現在はITILエキスパートを取得し、クライアントの課題解決に日々尽力するITサービス管理のエキスパートとして活躍。

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