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2022.02.15
更新日:
2017.03.22
全6回 【連載】徹底解説!「強いIT部門」を作るための業務改善TIPS 《連載:第2回》 コストセンターからプロフィットセンターへの脱却――「できるIT部門」に生まれ変わるための8カ条【前編】
企業に欠かせない存在であるにもかかわらず、直接的な利益を生み出さないことから「コストセンター」と見られがちなIT部門。しかし、競合他社との熾烈な競争に勝ち抜く企業は、もれなくIT部門を経営戦略の“武器”として活用し、業績アップにつなげています。そうした企業のIT部門と、「コストセンター」と認識されてしまうIT部門の違いは何なのでしょうか。多くの企業を見てきたクレオのITサービス管理のエキスパートである井上誠が、IT部門の価値を引き出す8カ条を提言します。
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IT部門は単なるコストセンターではない
あなたの会社は、IT部門をどのような存在として見ていますか。「業務で利用するサーバーやネットワーク、アプリケーションを運用管理してくれる人たち」「普段使っているパソコンの面倒を見てくれる部署」「システムに何か問題が起きたら対応してくれるチーム」――そうした認識が一般的かもしれません。
確かにIT部門は、ITサービスを提供するベンダーであるケースを除き、直接的な利益を生み出す「プロフィットセンター」ではありません。一方で、総務・人事部門や経理部門のようにビジネス部門を支援する役割だけを担うバックオフィスとは性質が異なるため、単なる「コストセンター」と定義することもできません。なぜなら大多数の企業は、すでにITの力を借りずにビジネスを遂行することは困難だからです。つまり、IT部門はコストセンターと見なされていながら、その活動はビジネス部門を後押しするものであり、利益創出に貢献するプロフィットセンターに転じることができるのです。
ところが残念ながら、多くの企業ではIT部門をコストセンターとして見てしまっています。ITサービス管理エキスパートとして多くの企業のIT部門を見てきた経験を持つ井上は、「その原因のほとんどがIT部門にある」と言います。
ではIT部門にはどんな問題があり、どのような方法で解決していくべきなのでしょうか。井上はIT部門の価値を引き出すためにとるべき行動として、以下の8カ条を提言します。
提言①:ビジネス部門の事業戦略を理解せよ
本来のIT部門は、ITを利活用してビジネス部門を支援するという役割を担っています。しかし企業によっては、IT部門がその役割を十分に果たしていない、すなわち「ビジネス部門を支援しないIT部門も見受けられる」と井上は指摘します。
「ビジネス部門は、当然のことながら業績アップのためにIT部門の支援を期待しています。それなのにダメなIT部門は、ビジネスへの理解がなく、期待に応えていません。ビジネス部門からの要望には対応するものの、それ以上でも以下でもない。説明を求められても、ビジネス部門が理解しづらい専門用語を並べる。これでは、ビジネス部門を支援しているとは到底言えません。IT部門がビジネス部門を支援していると評価されるには、ビジネス部門の事業戦略を理解すべきなのです。
日々の運用管理業務だけをこなしていても、会社はコストセンターとしか見なしません。IT部門に求められているのは、ビジネス部門の事業戦略を理解し、ITの側面から貢献できる施策をわかりやすく提案することです。その提案がビジネスにメリットをもたらせば、ビジネス部門もIT部門を手伝うようになります。例えば、新しいシステムを導入する際にも、テストやパイロットを率先して行ってくれます」
ビジネス領域への深い理解を実現するために、IT部門にはビジネス部門と意思疎通を図るコミュニケーション能力を磨くことが求められます。また、IT部門とビジネス部門で人事交流を行い、IT部門のメンバーにビジネス部門の業務を経験させるといった施策も有効です。
提言②:経営層を巻き込んで「IT戦略室」を組織化せよ
一部のビジネス部門と良好な関係を築けたとしても、それだけでは決して十分ではありません。そのビジネス部門の要求に応えただけの“部分最適化”されたITシステムを構築してしまうおそれがあるからです。各ビジネス部門がバラバラにITシステムを構築すると、会社全体で見たときに必ず投資の無駄が生じます。
こうした事態を回避するには、経営層との意思疎通を十分に深める必要があります。その施策として井上が提案するのは、「IT戦略室」の組織化です。
「経営層にIT部門の貢献を理解してもらうには、全社的な経営戦略をITの活用により支援する施策を検討するIT戦略室を組織化することが近道です。このIT戦略室は、必ずしも専任スタッフを置く組織である必要はありません。役員にCIO(Chief Information Officer)として責任ある立場に立ってもらい、各ビジネス部門の代表者と経営企画部門、IT部門で構成するバーチャルな組織、委員会のような形で運営するのです。ここでビジネス部門のITに対するニーズを洗い出し、経営戦略・事業戦略に合致するIT戦略の方向性を策定します。このIT戦略室の有効性は、ITサービスマネジメントのベストプラクティスであるITILにも謳われています」
IT戦略室の存在は、必ずIT部門にとって後ろ盾の存在になりますが、もちろんそうした組織は勝手に立ち上がるものではありません。設置を促すには、まずビジネス部門や経営層に「IT部門が企業にとって有益であること」をわかってもらう必要があります。
「ビジネス部門としても『自分たちにメリットがある』とわかれば必ずIT部門に歩み寄ってきます。そのためにも、先ほど述べたように、社内に対する説明が、『難解でひとりよがりになっていないか』を注意する。またビジネス部門からの要望に黙々と対応するのでなく、むしろ業務にどういう課題があるのかをこちらから聞くなど、相手部署の気持ちを考えるところから始めていくべきです」
提言③:当事者意識を持ったサービスデスクになれ
IT部門の主たる業務の一つが、ヘルプデスクです。システムの使用方法やトラブルの対処、クレーム処理などさまざまな問い合わせに対応する業務ですが、この運用方法に課題を抱えるIT部門は少なくありません。
「特に問題なのが、インシデント管理の方法です。障害などの問い合わせに対し、案件として起案するところから対応完了までの流れを表計算ソフトなどで運用管理していると、さまざまな問題が生じます。特に、トラブルの対処を外部ベンダーに委託している場合、的確な情報共有やリアルタイムな更新、案件状況の見える化ができず、迅速な対応も不可能になります。また、対処した内容がフィードバックされても、メールボックスに貯まる一方では、ナレッジとして活用されることはありません。これでは、ビジネス部門との間で交わしたSLA(サービスレベル合意)を守ることができません」
システム・サービスに発生する、「ユーザーへ影響を与える出来事」を意味するインシデント。これを解決するためには、インシデント管理の専門ツールなどを導入して一カ所で情報を管理することが求められます。さらに、すべての関係者が「当事者意識」を持ちながら情報にアクセスすることも大切です。
「ツールを利用すれば、誰が何をするべきかというタスクが一目瞭然になります。言い換えれば、ヘルプデスクに関わるすべての人が当事者意識を持たざるを得ない状況になります」
つまり、「単なるヘルプデスク」から、能動的に問題解決に務めビジネス部門へと快適なITサービスを供する「サービスデスク」になるべきなのです。
提言④:ノウハウを「ノウフー」にするな
情報共有ができていない企業では往々にしてIT部門内に「スーパーマン」がいる、と井上は言います。業務システムやアプリケーションに精通し、トラブル対処の知識や経験を豊富に持ったIT部門のエース的存在のスタッフのことです。
「スーパーマンのいるIT部門は、業務に関するさまざまな知見が個人にだけ蓄積されるという属人的な組織になりがちです。何かトラブル対処が必要なとき、組織にノウハウの蓄積がないためにその分野のスーパーマンに聞く、すなわち『ノウフー(Know-Who)』になってしまうのです。これでは、スーパーマンが欠勤したり退職したりしたときに、どうにも対処できなくなる危険性があります」
もちろんスーパーマンの存在そのものが害悪なのではありません。問題は、組織としてのノウハウ蓄積されないことです。属人化を防ぐためには、きちんとした管理のルールやプロセス策定などの対策が必要になります。
「例えば、インシデント発生時のプロセスの設定や、管理ツールの利用などを行うことで、トラブルに対してどのように対処したかというノウハウを蓄積していくのです。将来的には機械学習とAIを利用して音声認識や自然言語認識の処理を行い、効率的なノウハウの蓄積と迅速な対処方法の提示ができると期待できる領域なので、ぜひこの仕組みは組織として考えておくべきなのです」
本稿の「前編」では、IT部門の価値を引き出す8カ条のうち、4つの提言を紹介しました。
次回の「後編」では、さらに4つの提言を紹介します。
- 井上 誠株式会社クレオ
- 2002年から、さまざまな業務システムSEとしてキャリアをスタートし、100社を超える企業システムの開発プロジェクトに携わる。数多くのIT部門を見てきた経験とITILやITサービス管理への高い知見を生かし、現在はITILエキスパートを取得し、クライアントの課題解決に日々尽力するITサービス管理のエキスパートとして活躍。