ITIL用語解説
ITIL®︎(Information Technology Infrastructure Library)とは
ITIL®︎(Information Technology Infrastructure Library)とは、ITサービスマネジメント(ITSM)における成功事例を体系的にまとめたフレームワークです。1989年にイギリス政府によって発行された書籍群を原点とし、現在でも企業・官公庁・教育機関など幅広い組織でITサービス運用の基盤として活用されています。また、国際標準規格であるISO/IEC 20000のベースにもなっており、世界的に認知された指標として位置づけられています。
ITIL®︎の最大の特徴は、サービス提供に関する実務プロセスを“利用者視点”で最適化する点にあります。単なるチェックリストやマニュアルではなく、ITサービスを戦略立案から設計、移行、運用、改善まで一連のライフサイクルとして捉え、組織全体で統一した基準で運用できる仕組みを提供します。これにより、サービス品質の向上や属人化の解消、運用品質の安定化につながる運用体系が構築しやすくなります。
さらに、ITIL®︎は30年以上にわたり進化し続けてきました。クラウドやDevOps、アジャイル開発などの現代的なIT環境にも対応できるよう刷新され、最新バージョンであるITIL®︎ 4では「柔軟性・スピード・価値創出」を重視した構成へと発展しています。こうした継続的なアップデートにより、企業が抱える多様なIT運用課題に適応しやすいフレームワークとなっています。
ITIL®︎は“厳格に守るべきルール”ではなく、自社の課題や現場の実態に合わせて必要なプロセスだけを取り入れることが可能です。導入範囲や適用方法を柔軟に設計できる点が、さまざまな組織で長く活用されている理由の一つといえます。
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ITIL®︎の構成要素
ITIL®︎は、ITサービスを安定的かつ継続的に提供するためのベストプラクティスを体系化したフレームワークです。
構成要素は大きく分けて「サービス戦略」「サービスデザイン」「サービス移行」「サービスオペレーション」「継続的サービス改善」の5つのライフサイクルから成り立ちます。これらは単独ではなく、相互に関連しながらITサービス運用を支えています。
まず「サービス戦略」では、提供するサービスの価値・ターゲット・投資判断など、ITサービス全体の方向性を定めます。「サービスデザイン」では、SLA設計やキャパシティ管理、可用性設計など、サービス提供の仕組みを計画します。「サービス移行」は、変更管理・リリース管理・構成管理を中心に、新しいサービスや変更点を本番環境へ確実に導入する段階です。
日々の運用を担う「サービスオペレーション」では、インシデント管理・問題管理・イベント管理など、運用現場の安定稼働に直結するプロセスが定義されています。そして「継続的サービス改善(CSI)」では、各プロセスやサービスを継続して改善し、品質を高め続けるための仕組みが整理されています。
これらの構成要素は、企業規模や業種に応じて柔軟に組み合わせることで、サービス提供の品質と効率をバランスよく向上させることができます。
以下で、ITIL®︎の5つのライフサイクルについて、役割・目的・構成プロセスを整理します。
サービス・ストラテジ
ITサービスの戦略立案について解説しています。事業目標に応じて、ITの役割と要件を整理しており、ビジネスとITサービスとの関係性を整理するため、財務管理や需要管理・サービスポートフォリオ管理・事業関係管理といった項目を整理します。
ビジネス領域を決定するための市場分析や、サービスを提供するための資源確保、ROIやコストの管理を行う財務管理など、様々な角度から内容を吟味していきます。
サービス・デザイン
ITサービスの設計や変更について解説しています。サービス・デザインは、サービスカタログ管理や可用性管理・キャパシティ管理・継続性管理・サービスレベル管理・デザインコーディネーション・情報セキュリティ管理・サプライヤー管理などで構成されています。
品質、顧客満足度、費用対効果を保持しながら戦略を実現するために、スムーズな運用フローなどを開発していきます。
サービス・トランジション
ITサービスの立ち上げや、現在運用中のサービスから新しいサービスへの移行について整理しています。サービス・トランジションは、移行の計画立案・変更管理・サービス資産と構成管理・リリースおよび展開管理・サービスの妥当性確認およびテスト・変更の評価・ナレッジ管理などで構成されています。
設計した通りのサービスへの変更を反映させる上で生じる、変革による組織へのダメージを抑制しつつ、スムーズに移行を進めていくことが重視されます。
サービス・オペレーション
ITサービスの運用について整理しています。「インシデント管理」「要求実現」「イベント管理」「アクセス管理」「問題管理」の5つのプロセスでサービス要求を処理していきます。
継続的なサービス改善
ITサービスの継続的な改善について整理しています。どの段階においても、フローの見直しやPDCAサイクルを実施し、断続的にITサービスの改善を行うことで、組織として高いパフォーマンスを実現できるように、サービス品質を管理しています。
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サービスストラテジ
ITサービス戦略管理
サービスポートフォリオ管理
需要管理
ITサービス財務管理
事業関係管理 -
サービスデザイン
デザインコーディネーション
サービスカタログ管理
サービスレベル管理
可用性管理
キャパシティ管理
ITサービス継続性管理
情報セキュリティ管理
サプライヤ管理 -
サービストランジション
移行の計画立案及びサポート
ナレッジ管理
サービス資産管理と校正管理
変更管理
リリース管理及び展開管理
サービスの妥当性管理及びテスト
変更評価
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サービスオペレーション
サービスデスク*
イベント管理
インシデント管理
要求実現
問題管理
アクセス管理
技術管理*
IT運用管理*
アプリケーション管理*
継続的サービス改善
7ステップの改善プロセス*はプロセスではなく機能
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ITIL®︎のこれまでのバージョン
ITIL®︎には複数のバージョンが存在しており、時代に合わせてサービス提供の在り方が更新されてきました。特に多くの企業で活用されているのが「ITIL®︎ v3」と「ITIL®︎ 4」です。
ITIL®︎ v3は、サービスライフサイクルモデルを中心に構成され、戦略・設計・移行・運用・改善の流れを整理したことが特徴です。一方、最新のITIL®︎ 4は、急速に変化するIT環境やクラウド活用、アジャイル・DevOpsの普及を踏まえ、「価値創出」を重視する考え方へ進化しています。
ITIL®︎ 4では「サービスバリューシステム(SVS)」という概念が導入され、IT部門が単にシステムを運用するだけでなく、事業部門と協働しながら価値を継続的に生み出すことを重視しています。そのため、ITIL®︎ v3から移行する企業も増えており、現場状況に合わせて段階的に取り入れるケースが一般的です。
バージョン リリース年 概要 主な特徴 ITIL®︎ V1 1989年 英国政府が効率的なITサービス運用のために策定。40冊超のマニュアルで構成。 初めてのITサービス管理標準として、基礎的なプロセスを幅広くカバー。 ITIL®︎ V2 2000年 実務に即した内容に再編。サポートとデリバリの2系統に重点。 ヘルプデスク機能や変更管理など、日常業務に直結する内容が中心。 ITIL®︎ V3 2007年 サービスをライフサイクル全体で捉える視点を導入。5つの段階で構成。 長期的なIT戦略立案から日々の運用改善までを体系化。 ITIL®︎ 2011 2011年 V3の見直し版として、記述の明確化と一貫性を改善。 用語の整理やプロセス間の連携強化で実用性が向上。 ITIL®︎ 4 2019年 DX時代に対応し、柔軟性とスピードを重視した構成に刷新。 アジャイルやDevOpsとの親和性を高めた新モデルを採用。 -
ITIL®︎を導入するメリット・デメリット
ITIL®︎導入には、運用品質の向上や属人化の排除といった大きな利点がある一方、プロセス定義や定着に一定の工数がかかるなど注意点もあります。導入判断を行うためには、メリット・デメリット双方を理解することが重要です。
継続的なサービス改善
ITIL®︎を導入する最大のメリットは、まず運用プロセスが標準化され、属人化を解消できる点にあります。担当者ごとに対応品質がばらつく状況を防ぎ、誰が対応しても一定レベルのサービス品質を維持できるため、組織全体の安定性向上に寄与します。また、インシデント管理の手順が明確になることで、トラブル対応のスピードと精度が向上し、ユーザー体験の改善にも直結します。
さらに、変更管理・リリース管理といったプロセスが体系化されることで、リリース失敗や予期せぬ障害発生といったリスクを事前に抑制できる点も大きな利点です。継続的改善(CSI)の仕組みが組織文化として根づけば、サービス品質が長期的に安定し、IT部門の取り組みを“事業価値”と結びつけやすくなるという効果も期待できます。
継続的なサービス改善
一方で、ITIL®︎導入には注意すべき側面もあります。明確に定義されたプロセスを現場へ落とし込み、定着させるまでには教育や運用の工数が必要で、短期間で成果が出る仕組みではありません。また、ITIL®︎をマニュアルのようにそのまま適用すると、かえって現場負荷が増えるケースもあり、組織ごとに適切なカスタマイズが不可欠です。
ITIL®︎は万能の答えを提供するものではなく、自社の規模や運用体制に合わせて“必要な要素だけを選び、運用に適用する”という柔軟な姿勢が求められます。 -
ITIL®︎は特別な存在か?
では、ITIL®︎は何か特別な存在なのでしょうか? そして、ITシステムの開発・運用を改善する銀の弾となるのでしょうか?
SmartStageサービスデスク
すでに、ITシステムの開発・運用に関わっている人であれば、ITIL®︎の内容は決して目新しいものではない思う人も多いでしょう。なぜなら、ITIL®︎は、ITシステム管理を利用者視点で見直したものだからです。しかし、新しい視点から見直してみることで、獲得できる利点も多いはずです。
ITIL®︎が登場して、すでに30年以上が過ぎました。大手企業のIT部門やシステムインテグレータのITシステム運用部門を中心にITIL®︎は確実に広まっています。
一方で、ITIL®︎は、絶対に守らなければいけないルールブックではありません。自社のITサービスの状況に応じて、部分的に利用したり、カスタマイズしたりするべき成功事例集となっています。ですので、自社環境に合わせて、目的と範囲を明確にして、どのようにITIL®︎を適用していくか、自分たちで考えていくことが不可欠なのです。
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ITSM®︎のキーワード活用が成果に結びついた実際の導入事例
ITIL®︎やITSMの概念は、フレームワークとして理解するだけでは実務に定着しません。重要なのは、「申請管理」「標準化」「横断管理」「ナレッジ共有」といったキーワードを、組織の業務フローにどのように落とし込むかです。
ここでは、SmartStageを活用して ITSM の要素を実践し、明確な成果につなげた2つの企業事例をご紹介します。どちらも、単なるツール導入ではなく“キーワードレベルでの運用設計”に踏み込んだことが成功のポイントとなっています。
Excelからの脱却と業務標準化により、ITSMキーワードを全社で実践した事例
「申請管理」「作業標準化」「ナレッジ共有」など、ITSMにおける重要キーワードを一つひとつ自社に落とし込むことで、グループ35社・5,300名を横断する運用改善を実現した株式会社キッツの事例です。個別に最適化されていたExcelベースの管理を廃止し、SmartStage上で統一ルールを構築。結果として、属人化の排除、内部統制の強化、工数70%削減という成果を上げました。ITSMの「定義」ではなく「実行」が組織変革を生むことを示す好例です。
【関連ページ】
Excel業務からの脱却でITSMを定着させたキッツの取り組み
「共通化」「スケーラビリティ」といったITSMキーワードを体現した大規模導入事例
NECマネジメントパートナーでは、「共通基盤」「横断管理」「スケーラビリティ」といったITSMのキーワードをそのまま体現する仕組みを構築。65,000人超のユーザーを対象に、SmartStageを活用して部門・業務を超えた案件管理を実現しました。サーバーライセンス制を導入し、コスト最適化にも成功。組織が拡大する中でも「統一されたルールで回せる仕組み」を維持するために、キーワードレベルでの戦略的な設計が功を奏したケースです。
【関連ページ】
ITSMの共通基盤化とコスト最適化を両立したNECの事例
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