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2022.02.24
更新日:
2020.08.25
全2回 変化の時代に必読!思考・感性をアップデートさせる書籍案内 《連載:第2回》 多様性について考える本3冊
もともと男性中心的である日本企業にあって、IT部門はとりわけその傾向が強いと言われることがあります。国が違っても事情は変わらず、2017年にグーグルの男性技術者による女性差別的な文書が流出し、アメリカ社会に波紋を広げたこともありました。
とはいえ、ジェンダーに限らず、あらゆる差別に反対する社会運動が盛り上がる中、ビジネスにおいても「多様性(ダイバーシティ)」に配慮するのは、もはや常識になりつつあると言って良いでしょう。 今回は、そんな「多様性について考える本」を3冊(+1冊)紹介します。
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全2回変化の時代に必読!思考・感性をアップデートさせる書籍案内
多様性について考える本① 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 (ブレイディみかこ/新潮社)
日本に生まれ、20年以上イギリスで暮らす著者が、イギリス生まれで東洋系の顔を持つ中学生の息子との交流を通じて、様々な差別や格差について考えるエッセイです。
EU離脱問題で移民排斥運動に揺れるイギリスで、著者が暮らすのはイギリスでも貧富の差の激しいエリア。そこで二人は、ある時は「中国へ帰れ」と罵られ、ある時は学校で他の移民の息子に対するいじめを目の当たりにします。一方で、自分たちもマイノリティでありながら、何気ない一言で他のマイノリティの人を傷つけてしまうことも……。そんな、著者いわく〈地雷だらけ〉の日常を、二人は同じ目線で悩み、考え、話し合いながら乗り越えてゆきます。
本書のキーワードとも言えるのが、息子が授業で出会った〈エンパシー〉という言葉。自分と同じ境遇・立場の人に抱く共感(シンパシー)とは異なり、「自分と違う境遇・立場の人の気持ちを想像する力」を指します。そして、息子はその言葉を〈他人の靴を履いてみること〉と解釈します。
〈他人の靴を履いてみること〉。共感という言葉にはない、ある種の「覚悟」を感じさせるこの姿勢こそ、多様性を実現するための第一歩かもしれません。
多様性について考える本② 『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ/筑摩書房)
韓国で社会現象を巻き起こした、女性差別をテーマとした小説です。日本でも大ヒットし、2020年10月には映画も公開予定。一人の女性の半生を通して、女性が「女性だから」という理由だけで、どれだけ理不尽な目に遭わなければいけないか、ということが生々しく描き出されています。
就職活動における男性優位、信頼していた男性からも向けられる不躾で性的な視線、会社での男性との待遇差(なぜかお茶汲みは女性)、結婚・妊娠を機に好きだった会社と仕事を辞めざるを得ないこと、かと思えば「専業主婦は楽で羨ましい」と言われる……などなど、女性なら誰しもが思い当たるエピソードばかりのはず。
舞台が韓国だからといって「所詮、海の向こうの話」では済みません。文化は違っても、女性個人の努力だけではどうにもならない社会構造は同じだからです。何といっても、国の男女格差をあらわす指標である「ジェンダーギャップ指数(2019年版)」は、韓国の108位に対して、日本は121位(153カ国中)。入試で女性の一律減点がまかり通っていた社会であれば、当然かもしれませんが。
特に、「自分は問題ない」「会社に差別やハラスメントはない」と思っている男性におすすめです。男性が誠実で公平だと思っている言動も、女性にとってはいかにピント外れで差別的なものであるかということに気付かされるはずです。
多様性について考える本③ 『翻訳できない世界のことば』(エラ・フランシス・サンダース著/創元社)
ひと言ではニュアンスまで翻訳できない、その国独特の言葉を世界中から集めたユニークな絵本です。日本語からは「わびさび」が選ばれている、といえばわかりやすいでしょうか(他には「ボケっと」「積ん読」など)。(当時)モロッコに住む19歳の女性のブログが評判を呼んで書籍化されたそうです。
ユニークなものをいくつか挙げると・・・
・ポルトガル語の〈CAFUNE〉=〈愛する人の髪にそっと指をとおすしぐさ〉
・イヌイット語の〈IKTSUARPOK〉=〈だれか来ているのではないかと期待して、何度も外に出て見てみること〉
・マレー語の〈PISAN ZAPRA〉=〈バナナを食べるときの所要時間〉
などなど。
言葉というものの多様性に驚かられつつ、言葉を通して、その国や民族の方々の暮らしぶり、ちょっとした日常のシーンが浮かんできて、何ともいえずホッコリとした気持ちにもなります。「異文化理解は外国語習得から」とも言われますが、忙しい毎日でも、本書のページをめくりながら、遠い国の人々の生活や文化に思いを馳せる時間をとってみるのはいかがでしょう。
言葉と言えば、本書を気に入った方におすすめなのが、『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』(奥野克己著/亜紀書房)という本。
人類学者が、タイトル通り「ありがとう」や「ごめんなさい」という言葉が存在しない、と同時に、富の独占や自己責任の概念もないボルネオ島の狩猟民族「プナン」とのフィールドワークをまとめた一冊です。自分とは常識も価値観もまったく異なる社会や人々を知ること。それもまた、多様性実現のために大切なことではないでしょうか。
今回はいつもと趣向を変えて、書籍を6冊(+1冊)紹介しました。一見、ITとは関係のないものがほとんどでしたが、普段なじみのない思考や感性に触れることが、思わぬ形で日々の仕事のヒントになることはよくあります。そして読書こそ、その最適な手段。今回ご紹介した本が、少しでも皆様のお役に立てるとうれしいです。