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2024.07.09
更新日:
2024.07.09
全2回 生成AIの普及でIT部門の仕事はどう変わるのか? 《連載:第1回》 ヘルプデスク、システム開発でも活用が進む生成AI
文章や画像、音声など、さまざまなコンテンツを自動生成できる生成AI(Generative AI)。「ビジネスに革命をもたらす存在」と言われ注目を集めていますが、実際のところ、どのように活用され、どのような効果を生み出しているのでしょうか。今回はIT部門の業務における生成AIの活用例や、導入の際に求められる取り組みについて紹介します。
生成AIを取り巻く現状
昨年2023年はさまざまなメディアで「生成AI元年」と呼ばれていますが、確かにその呼び方も大げさではないと思われるほど、生成AIの話題で持ちきりの1年でした。
2023年3月には米OpenAIが前年の『ChatGPT』リリースの勢いそのままに、新たな大規模言語モデル(LLM)『GPT-4』を公開。その性能の高さと進化のスピードで世界を驚かせました。さらにそれと前後して、『ChatGPT』の機能を組み込んだサードパーティー製のアプリも次々に登場。Googleの対話型AI『Bard』を始め、MetaやAdobeなど、いわゆるビッグテックと呼ばれる巨大IT企業の本格的な参入も話題を呼びました。
とはいえ他方では、こちらも前年に引き続き、生成AIに対する反発が止むことはありませんでした。中でも注目を集めたのは、米ハリウッドにおける大規模ストライキ、そしてEUやアメリカ、中国などで現在も進んでいる法規制でしょう。加えて2023年11月には、OpenAI内で経営をめぐるお家騒動が勃発。一部でささやかれていた「生成AIは幻滅期を迎えた」という声はさすがに極端過ぎるにしても、2024年に入りしばらく経った頃には、一時の熱狂的な盛り上がりはすっかり落ち着いてきたかに思われました。
しかし、それもつかの間のこと、ここにきて再び生成AIの話題が世間を賑わせています。そのきっかけの一つと言えるのが、2024年5月にOpenAIが発表した新たな大規模言語モデル『GPT-4o(フォーオー)』。従来よりもテキスト、音声、画像、動画、さらにそれぞれの組み合わせに対する理解力・処理能力が格段に向上し、ほぼ人間同士で会話しているようなテンポで音声のやり取りができたり、動画の内容を短時間で理解してテキストで要約したりといった機能が、驚きをもって迎えられました。
以上、ここ1年半ほどの生成AIをめぐる動きを簡単に振り返ってきましたが、私たちに身近なビジネスにおいては、このような激しい浮き沈みに関係なく、既にお試しや実験のフェーズは終わって「活用段階に入っている」というのが大方の見方のようです。
確かに海外と比べるとまだまだ少ないものの、日本でもKDDI株式会社や株式会社大和証券、ダイキン工業株式会社など、名だたるDX推進企業が全社的に生成AIを導入していることは知られています。また、そうした企業以外でも、営業、マーケティング、カスタマーサポート、広告制作など、さまざまな部署や業務で生成AIによる業務効率化や省人化が進められています。
そしてそれはもちろん、IT部門の業務も例外ではありません。
社内ヘルプデスクにおける生成AI活用例
例えば、IT部門の主要業務の一つ、社内ヘルプデスクでも生成AIの導入は進んでいます。既に『ChatGPT』の機能を活用したチャットボットタイプのソリューションも登場しています。
ユーザーの問い合わせにAIが自動で回答を返す(生成する)ことが可能で、問い合わせ対応の一部を省人化できることがメリットです。一般に、生成AIの「ハルシネーション(誤情報の生成)」対策として、AIの学習用データ向けにマニュアルなどの社内ドキュメントをアップロードできる機能や、AIが生成した回答に引用元の社内ドキュメントを明記する機能なども備わっています。
その他、個人情報や機密情報の漏えいを防ぐために、権限管理やダッシュボードで社員の利用状況を一元管理できるツールもあります。恐らく大抵のツールはそのようになってはいますが、チャットに入力した内容が外部のAIモデルの学習に利用されないよう、APIを介して『ChatGPT』を利用するツールを選ぶこともポイントです。
もちろん、このようなツールではなく、自社で同様のシステムを開発している企業も存在します。例えば、通信大手のソフトバンク株式会社では、2023年2月から社内向けITヘルプデスクに生成AIを活用した独自のAIチャットボットを導入。ベースとなるデータとして従来のITヘルプデスクで蓄積した約3万6,000種類のQ&Aデータを連携し、さらに同チャット上のやり取りで得られるデータをAIが学習することで、正答率の向上や自動対応の高度化を図っています。
※参照:ソフトバンク版AIチャットと社内向けITヘルプデスクを連携させて業務のさらなる円滑化を推進|ソフトバンク株式会社
プログラミング・開発業務における生成AI活用例
IT関連の業務では、プログラミングやソフトウェア・システム開発での生成AI導入も進んでいます。中でも目立つのが「コーディング支援ツール」(別称「プログラミング支援AI」「開発支援ツール」)の活用です。
コーディング支援ツールとは、プログラムコードを自動生成できる生成AIの技術を取り入れたツールのこと。通常、膨大なオープンソースコードから学習したAIを活用しており、ユーザーが自然言語で入力した指示に応じてコードを提案したり、コードを書き始めると続きのコードを予測して補完したりすることが可能です。
コーディング支援ツールは既に何種類も登場していますが、広く知られているのは『GitHub Copilot』。LINEヤフー株式会社でも活用しており、エンジニア約7,000名を対象に導入したところ、約10%~30%の生産性向上が確認されたと発表しています。
※参照:LINEヤフー、個人向けサービスを中心に16件で生成AIを活用 従業員約2万人に生成AIアシスタントを提供|LINEヤフー株式会社
他にもプログラミング・開発領域では、次のような業務に生成AIが活用されています。
- コード変換…コードを別の開発言語へ変換する作業
- リファクタリング…プログラムの動作を保ったままソースコードを整理・改善する作業
- 要件定義…アイデア出しやブレインストーミングの壁打ち相手として活用
- UIデザイン作成…アプリやWebサイトなどのUIデザインを自動生成するツールもあり
- 議事録やプロジェクト体制図、スケジュール表などの作成
- テスト自動化…テストの手順・条件などをまとめた「テストケース」や、自動的にテストを実施するための一連の指示をまとめた「テストスクリプト」の生成など
さらに生成AIは、IT部門のベースとも言える業務、ITシステムの運用保守やITサービス管理への活用も進んでいます。次回第2回記事で紹介します。