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  • IT統制

2023.11.28

 更新日:

2023.11.28

全2回 IT部門なら最低限知っておきたいコンプライアンス基礎知識 《連載:第2回》 思わぬトラブルに発展も!?システム開発契約に関するよくある誤解

後半はシステム(ソフトウェア)開発契約に関わる法律知識を紹介します。IT担当者の必須知識として『ITパスポート試験』や『基礎情報技術者試験』の出題分野になっている一方で、前半記事のソフトウェアライセンス同様、誤解や理解不足により訴訟などのトラブルも頻発しています。内容は基礎レベルですが、是非この機会に正しい知識を学んでください。

契約形態の勘違い例

システム開発の際に「業務委託契約書」を作成する企業は少なくありませんが、契約形態に関する勘違いで最も多いのは、この「業務委託契約」という言葉にまつわるものかもしれません。というより、そもそも業務委託契約という名称の契約形態は法律上存在しないのです。

業務委託契約はあくまで慣習的に用いられてきた用語であり、システム開発やソフトウェア開発のプロジェクトの場合、自社の業務をベンダーや個人事業主に委託する契約形態は「請負契約」か「準委任契約」のどちらかであることが一般的です。

それぞれについても勘違いが多いので、簡単に説明しておきましょう。

・請負契約

請負契約は「仕事の完了」に対して報酬が発生する契約形態です。報酬は注文者(ユーザー)による検収終了後に支払われます。なお、請負人(ベンダー)は仕事の完了だけではなく、契約で定めた品質条件を満たす義務もあります。

・請負契約に関する勘違い例

勘違い例①

「ユーザー企業はベンダーの社員を自社に常駐させ、直接作業指示を出してもよい」

⇒請負契約では、原則的にユーザー企業はベンダー側に直接作業指示を出すことはできません。請負契約であるにもかかわらず、ベンダー企業の社員がユーザー企業の指揮命令の下に業務をおこなっている場合は、偽装請負として取り締まりの対象となります。

勘違い例②

「開発したプログラムの著作権は、特段の定めがない限りユーザー側に帰属する」

⇒請負契約では、成果物の著作権は原則として請負側に帰属します。成果物の著作権を注文者(ユーザー企業)に移転させるためには、その旨を契約書に記載しておく必要があります。

・準委任契約

準委任契約は「仕事の遂行」に対して報酬が発生する契約形態です。受任者(ベンダー)は仕事の完成義務を負いません。報酬は業務を遂行した量(時間や工数)に対して支払われます。主に要件定義や運用テストの高低で採用されています。

・準委任契約に関する勘違い例

「準委任契約において、ベンダー側は事後に責任を問われることはない」

⇒仕事の完了義務を負わない準委任契約においても、ベンダーは「善管注意義務」という専門家として一般的・客観的に要求される注意のもと適切に業務を遂行すべき義務を負います。仕事のやり方や成果物の内容によっては責任を問われる可能性はありますし、実際にそうした判例も存在します。

なお、2020年4月の民法改正により、準委任契約にも従来の「履行割合型」に加えて「成果完成型」が設けられました。仕事の完了が報酬の要件となる点は請負契約と同じですが、成果完成型準委任契約は「仕事の完了または成果物の納品と同時に報酬を請求できる」こと、先述の善管注意義務を果たしていれば従来通り品質などに対する責任(契約不適合責任)が問われない点で異なります。

成果型準委任契約と請負契約の大きな違いは、「品質の満足」義務を果す必要がないこと、「仕事の完了または成果物の納品と同時に報酬を請求できる」点が異なります。

ユーザー企業が知っておくべき「協力義務」

システム開発において、ユーザー企業とベンダーの役割・関係性についての勘違いが思わぬトラブルを引き起こすことがあります。とりわけ裁判で争点となりやすいのがユーザー企業の「協力義務」です。

協力義務の“協力”とは、請負契約のシステム開発で「プロジェクトの完遂に向けて委託者(ユーザー)がすべき受託者(ベンダー)への協力」を指します。ただし「ベンダーの要望に対応する」といった受け身の姿勢ではなく、プロジェクトを円滑に進めるための「自発的な姿勢」が求められます。

協力義務の具体的な内容に関する法律上の明文規定は存在していませんが、過去の裁判例を参考にすると次のような取り組みが挙げられます。

  • タイムリーな情報提供
  • 要件などの意思決定
  • 開発環境整備
  • ベンダーの教育(対象業務)
  • 組織内調整(内部の意見統一含む)
  • 受入テスト
  • など

協力義務を果たさずにプロジェクトが失敗した場合、ユーザー企業が損害賠償を払わねばならないケースもあります。例えば2017年のあるシステム開発契約をめぐる裁判では、ユーザー側が仕様の凍結に合意した後も追加開発を繰り返し要望したこと、マスターデータ作成の協力姿勢が不十分だったことなどが協力義務違反に当たるとし、約14億円の支払いを命じる判決が下されました。

もちろん、ユーザー企業だけでなく、ベンダー側にも「プロジェクトマネジメント義務」という専門家として適切かつ円滑にプロジェクトを進めていく義務が課されています。言うまでもなく、ユーザーだけでもベンダーだけでも最適なシステムを完成させることはできません。協力義務とプロジェクトマネジメント義務の存在は、開発プロジェクトにおいては通常の「買い手」「売り手」の関係ではなく、「共同作業のパートナーであるべし」という教えのようなものでもあるのでしょう。

今回取り上げたソフトウェアライセンスと開発契約以外にも、セキュリティ関連やインターネット上の売買契約関連など、IT部門が知っておきたい法律知識は多岐にわたります。法務部門は法律の専門家ですが、ITの専門家ではありません。ITに関する不祥事やトラブルを未然に防ぎ、企業のコンプライアンスの取り組みに貢献すること。そのための知識をきちんと身に付けおくこと。それらはやはりIT部門の仕事と言えるでしょう。

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SmartStage編集部

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