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  • 業務プロセス

2022.02.15

 更新日:

2021.02.24

全2回 IT部門が知っておくべき「行動経済学」とは 《連載:第2回》 IT部門でも活用できる行動経済学アプローチ

GAFAやシリコンバレーでの盛り上がりを筆頭に、今や行動経済学は、ビジネスの世界では知っていて当たり前の知識と言っても過言ではありません。今回は、IT/情シス部門の仕事でも活用できる行動経済学の理論やアプローチを紹介します。

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全2回IT部門が知っておくべき「行動経済学」とは

リーダーやPMが知っておきたい〈認知バイアス〉

IT/情シス部門で特に行動経済学の知識を生かせるのは、意思決定や組織マネジメントを求められるリーダー及びプロジェクトマネージャーです。中でも知っておきたいのが〈認知バイアス〉。人の判断に強い影響を与える思考の偏りや心理傾向のことで、頭に入れておけば、事前に対応策を講じて誤った意思決定を回避することができます。いくつか紹介しましょう。

〈現在バイアス〉

目先の利益を優先し、肝心なことを後回してしまう心理傾向です。マーケティングでは消費者の〈現在バイアス〉を狙った「今だけお得キャンペーン」がおなじみですが、プロジェクトマネージャーが〈現在バイアス〉で意思決定してしまうと、スケジュールの乱れや、悪い意味でおなじみの「上流工程のバグが下流工程で増幅する」という事態を招いてしまいます。

対応策としては、タスクを適度に細分化して、実施状況を〈見える化〉したり、途中経過の報告義務を織り込んだりすると良いでしょう。

〈楽観主義バイアス〉

物事を楽観的に考えてしまう心理傾向です。当初のスケジュールに対して遅れていたり、いくつも仕様バグや設計バグが発生したりしていても、何故か根拠もなく「どうにかなるだろう」と考えてしまう人は多いのではないでしょうか。何となく、コロナ禍での政府の対応を思わせる言葉でもあります。

対応策は、ある程度のミスやバグを想定してスケジュールを組む、常に自分の仮説は間違っているという前提に立って考えることなどが挙げられます。

〈損失回避バイアス〉

未来の利益より、目の前の損失(リスク)を避けることを優先してしまう心理傾向です。部下に仕事を任せられず、何でも自分でやってしまいがちなリーダーや上司が典型です。

確かに仕事を教えるのに手間はかかりますし、任せることによってミスが生じるかもしれません。けれども組織の未来を考えれば、どちらが結果として大きな利益を生むかは明白なはずです。

〈鏡映効果〉

これは〈認知バイアス〉ではなく、前回紹介した〈プロスペクト理論〉の一つですが、知っておいて損はありません。〈鏡映効果〉とは、「意思決定者は利益が出ている状況では損失回避的に振る舞うが、損失が増えるとリスクに対する許容度が拡大し、大きなリスクを取ってでも事態の改善を図る傾向」のこと。競馬で例えるなら、負け続けている時ほど大穴を狙ってしまう心理と言えるでしょう。

プロジェクトが上手くいっている時は的確な判断を下すのに、問題が発生しだした途端、「Welcome トラブル」な意思決定を連発して、現場にデスマーチを鳴り響かせるPMは確かに存在します。そうならないためにも、常日頃からこの〈鏡映効果〉を念頭に置いておきましょう。

〈ナッジ理論〉を活用した働き方改革事例

組織や現場の働き方改革を目指しているリーダー・マネージャーには、行動経済学から生まれた〈ナッジ〉が役立ちます。

〈ナッジ〉とは、「強制や規制、金銭的インセンティブに頼ることなく、人々が自発的に望ましい行動を選択するように導くアプローチ」のこと。アムステルダムの空港で、「人は的(まと)があると、そこに狙いを定める」という心理傾向を利用し、男子トイレの小便器の内側に一匹のハエを描いて清掃費を8割減させたエピソードがありますが、あれも〈ナッジ〉の活用事例です。

ここではIT/情シス部門の働き方改革の参考になる、日本での〈ナッジ〉を活用した働き方改革事例を紹介しましょう。

〈ナッジ〉を活用した働き方改革事例:1

警察庁・中部管区警察局では、職員の休暇取得率を高めるために、宿直勤務の翌日は休暇取得をデフォルト設定。どうしても休めない場合のみ本人から申請させるようにしたところ、休日取得増につながりました。前回紹介した〈デフォルト効果〉を用いつつ、休日申請の心理的ハードルを下げた見事な事例です。

〈ナッジ〉を活用した働き方改革事例:2

ある大手商社では超過勤務短縮を図るため、勤務時間後の残業申請の工程を増やし、早朝勤務の申請をシンプルにした結果、全体の勤務時間短縮につながったそうです。1とも似ていますが、規則や罰則よりも心理的ハードルの方が人間の行動を左右するということを教えてくれる事例です。

〈ナッジ〉を活用した働き方改革事例:3

働き方改革が難しいと言われている医療現場で残業時間減少を実現させたのは、看護師の制服の色でした。ある医療機関で日勤と夜勤で制服の色を分けたところ、看護師たちが「色の違う制服に交じって残業するのが恥ずかしい」と勤務時間内に仕事を終わらせるようになり、どうしても残業が必要な場合も、一目で残業しているとわかるので余計な仕事を頼まれなくなったそうです。

以上、まだまだ一部ではありますが、行動経済学とその活用方法について紹介してきました。我が身や周囲を顧みて「なるほど」と感じる部分も多く、純粋に知識として興味を持たれた方も多いのではないでしょうか。

ITの現場では、何かと「合理的であること」が尊重されます。習得する知識もITやテクノロジーに偏ってしまいがちです。もちろんそれは仕方のないことですし、間違いでもありません。ただし、忘れてはいけないのは、技術はあくまで手段であるということ。そして、その先には必ず「人」=ユーザーが存在し、その「人」は決して合理的ではなく、驚くほど非合理な判断を下す存在であるということです(ちなみに、2017年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者のリチャード・セイラー教授は、「にんげんだもの」で知られる故・相田みつを氏の大ファンだそうです)。

例え現在は必要なくても、今後IT/情シス部門が「攻め」の部門へ、あるいはDXの中心組織へと変わっていくにともない、「人」の心理に対する理解が求められるようになることは間違いありません。その時にこそ、今回紹介した行動経済学の知見が役に立つはずです。

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SmartStage編集部

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