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2025.12.09
更新日:
2025.12.09
全2回 【ITチームのリーダー必読】成果を最大化するチームビルディング実践ノウハウ 《連載:第1回》 挑戦を恐れないチームに変わる!「心理的安全性」向上のポイント

「メンバー同士が無関心で一体感がない」「思うように成果が上がらない」——チームづくりに関して、このような悩みを抱えるリーダーやマネージャーは少なくありません。しかし、人材や働き方の多様化が進み、課題も複雑化している現在のビジネス環境においては、いかにチーム力を向上させられるかが、事業成長に欠かせない鍵となっています。
こうした中、メンバーの力を最大化し、チーム全体のパフォーマンスを高める取り組みとして注目を集めているのが「チームビルディング」です。
なぜIT部門にチームビルディングが必要なのか
チームビルディングは、欧米を中心に発展してきた組織開発(Organization Development)の手法のひとつです。さまざまな定義がありますが、一般的には「メンバーがそれぞれのスキルや経験を最大限に発揮し、互いに協力しながら目標を達成できるチームを構築する取り組み」を指します。
もちろん、IT部門にとってもチームビルディングは極めて重要です。業務の生産性向上や開発プロジェクトの成功だけでなく、近年ビジネスで必須とされているアジャイル開発やデジタルトランスフォーメーション(DX)など、部門横断的または全社的な連携・協働が求められる施策にも大きな役割を果たします。
つまりチームビルディングは、IT部門が経営に貢献する〈ビジネスクリエイティブ集団〉へと変革していくために不可欠な取り組みとも言えるのです。今回はそんなIT部門やプロジェクトのリーダー・マネージャーなら知っておきたい、チームビルディングの手法やフレームワークを紹介していきます。
チームビルディングの土台「心理的安全性」
心理的安全性(psychological safety)とは、わかりやすく言うと、「他メンバーとの対立を恐れたり、無知・無能と思われたりする不安を抱くことなく、安心して発言や行動、失敗ができる環境」を指します。目的はメンバーの挑戦や自発性を引き出す組織づくりであり、単に仲が良いだけの〈ぬるま湯組織〉とは異なる点に注意が必要です。
心理的安全性という概念は、組織行動学の研究者であるハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年に提唱したもので、その後、米Google社が2012年に実施した社内研究プロジェクトにおいて、チームの効果性に最も影響する要素であることが確認され、広く知られるようになりました。
参照:Understand team effectiveness|Google re:Work
言わば心理的安全性を確保・向上することは、チームビルディングの土台づくりとなる取り組み。IT部門の業務や開発プロジェクトにおいても、次のような効果が期待できます。
・失敗を恐れないマインドが、新技術の導入やイノベーション創出を促す
・ミスの隠蔽や報告の遅れ・漏れを防ぎ、不正・不祥事を防止できる
もちろん、DXのような高度な取り組みにおいても欠かせません。経済産業省が2020年に公表した『DXレポート2(中間取りまとめ)』でも、IT部門に求められるマインド・環境として、アジャイルマインド(俊敏に適応し続ける精神)と並んで心理的安全性が挙げられています。
チームの心理的安全性を測る「7つの質問」
チームの心理的安全性を測定・評価する方法としては、エドモンドソン教授が考案したとされる7つの質問が効果的です。以下の1~7の項目に、メンバーがどの程度同意するかを答えてもらいます。
- ミスをするとしばしば非難される
- メンバーは問題や困難な課題を提起することができる
- 他の人と違うという理由で拒絶されることがある
- リスクを取っても安全である
- 他のメンバーに助けを求めるのは難しい
- 誰も自分の努力を意図的に妨げるような行動は取らない
- 自分の持つスキルや才能が評価され、活かされている
※Understand team effectiveness|Google re:Workより引用・翻訳
回答方法は「はい」「いいえ」方式でも5段階評価方式などでも構いませんが、2、4、6、7のようなポジティブな項目への同意が多いほどチームの心理的安全性が高く、反対に1、3、5のようなネガティブな項目への同意が多いほど低いと判断されます。
では、チームの心理的安全性が低い場合、具体的にどのようにして向上すれば良いのでしょうか。
企業の心理的安全性向上のための取り組み事例
心理的安全性を向上させる手法としては、リーダーとメンバーによる1on1ミーティングが代表的です。それ以外では、組織全体でコミュニケーションのルールを明確化している企業も少なくありません。
例えば全社員によるDXを推進している株式会社クレディセゾンでは、DX推進組織において次の4つの原則を掲げて業務を推進しています。
- 1. 「HRTの原則」(Humility:謙虚/Respect:尊敬/Trust:信頼)の採用
- 2. 「さん」付けの徹底、役職呼びおよび「く ん」付けゼロの徹底
- 3. 短所ではなく長所をみること
- 4. 世の中を良くする、企業を成長させるなど、成果を最重視すること
出典:デジタルトランスフォーメーション銘柄2024(p.67)|経済産業省
また、株式会社丸井グループでは、トップダウンのような一方通行のコミュニケーションではなく、双方向のコミュニケーションを通じた「対話の文化」を醸成するために、次のような7つのルールを策定し、会議やミーティングで実践しています。
- 安全な場宣言から始める
- 目的を設けない
- 結論を求めない
- 傾聴する
- 人の発言を受けて発言する
- 人の意見を否定しない
- 間隔を置いて熟成させること
出典:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集(p.65)|経済産業省
もちろん、ITツールの活用も有効です。株式会社メルカリでは、心理的安全性の向上に有効な「称賛し合う文化」を醸成するために、ピアボーナス(peer:同僚+bonus:報酬)ツールを活用した『mertip(メルチップ)』という社内制度を設けています。
内容は、社内コミュニケーションツール『Slack』上で、他の社員に称賛や感謝のメッセージを贈ることができるというもの。メッセージと一緒に手持ちのポイントをインセンティブとして贈ることもでき、ポイントは1ポイント=1円として、受け取った社員の給料に上乗せされる仕組みになっています。
出典:メルカリのピアボーナス制度「メルチップ」、メッセージ累計数が100万を突破しました〜!#メルカリな日々|株式会社メルカリ
次回の第2回目記事では、チームの課題解決に役立つ実践的なフレームワークを2つ紹介します。



