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2025.07.22
更新日:
2025.07.22
全2回 データの価値創出に向けて——新たなデータマネジメント手法「DataOps」 《連載:第2回》 データマネジメントを効率化・高度化する「DataOps」とは?
大量かつ多様なデータをビジネスに有効活用するためには、データマネジメントの取り組みが重要です。今回は、そのデータマネジメントを高度化し、データ処理の俊敏性と柔軟性を飛躍的に向上させる「DataOps(データオプス)」の基礎知識を紹介します。
「データを活用し業務を改善する」「データ活用で得られた価値や知見をフィードバックしてデータを改善する」という改善サイクルを、関係する部門と担当者全員が協働しながら高速かつ高品質に回していくことが重要になる
DataOpsの3つの特徴
DataOpsには厳密な定義は存在しませんが、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)のDataOpsに関する資料では、次のように説明されています。
「技術のみならず⼈やプロセスの変⾰に取組み、膨⼤な数のデータソースから作成される⾼品質なデータを、データの消費者(引用者注:利用者)に向けて俊敏にかつ継続的に配信するためのデータマネジメント⼿法」
※出典:データマネジメントの⾼度化に対応するためのDataOpsの導⼊ 俊敏で柔軟なデータ処理を可能にす新しいデータマネジメント⼿法|独立行政法人 情報処理推進機構
DataOps(データオプス)は、Data(データ)とOperations(運用)を組み合わせた造語です。これは、システム開発における「DevOps(デブオプス)」、すなわちDevelopment(開発)とOperations(運用)を組み合わせた手法をデータ管理に応用したことに由来しています。実際にDataOpsとDevOpsは、対象とする領域は異なるものの、似たアプローチを採用しています。
例えばDevOpsでは、ニーズや環境の変化に迅速かつ柔軟に対応するため、開発チームと運用チームの密接な連携を重視します。DataOpsでも同様に、データを利用するチーム(例:業務部門)と、データを管理するチーム(例:IT部門)が緊密に連携し、データの正確性や鮮度の継続的な向上・改善を図ります。
また、DevOpsでは、コード変更時のテストや本番環境へのリリースを自動化する「継続的デリバリー(CD)」というアプローチを採用していますが、DataOpsでも、常に新しいデータを処理するデータパイプライン(データを収集し、分析に適した状態に整える仕組みやプロセス)を実現するために、継続的デリバリーを実施します。
もう一点、両者に共通するのが継続的な改善の取り組みです。DataOpsでは、そのためにオブザーバビリティ(可観測性)の確保が重視され、データや処理プロセスの状況を定量的に把握・可視化することで、データの品質やデリバリーに影響を及ぼす問題点を早期に特定し、改善サイクルを迅速に回すことが求められます。
このように、「部門横断的な協働」「自動化」「継続的な改善」というDevOps由来の3つアプローチを重視する点が、従来のデータマネジメントにはないDataOpsの大きな特徴です。
DataOpsで活用されるツール
企業によってベストプラクティスは異なりますが、DataOpsの実現に向けて活用されている基本的なデータマネジメントツールを紹介します。
データの処理プロセス全体において、とりわけ多くの時間と労力を要するのが、データを分析に適した形に整形するプロセスです。いわゆる前処理にあたるこの工程を自動化するツールを活用することで、データ作成者の業務負担を軽減し、データマネジメントの効率化を実現することができます。
・データプリパレーションツール
従来の整形処理と異なり、プログラミング不要で、GUI (グラフィカルユーザーインターフェイス)を用いた視覚的な操作でデータの整形ができるツールです。専門的な知識・スキルのないユーザーでも、簡単にデータの確認や整形をおこなえるのが特長です。複雑な処理が必要なデータに対して、AIや機械学習を活用して欠損値や異常値を自動で検知・補完できるツールも登場しています。
・仮想統合ツール
複数のシステムに分散しているデータを、その属性や特性を示すメタデータを活⽤し、仮想的に再現・統合するツールです。仮想化の特徴は、従来のようなデータの物理的な移動やコピーが不要になり、単一の仮想データレイヤーを通して、多様なデータに一元的かつリアルタイムでデータにアクセスできること。GUI操作で整形処理のシミュレーションをおこない、それを基に物理的な統合データを作成できるツールも登場しており、データソースの追加や新たなデータ統合の作成を柔軟におこなうことも可能です。通常、メタデータは「データカタログ」と呼ばれるツールで一元管理するのが一般的です。
メタデータを活用したデータ仮想化の流れ(イメージ)
・ETL自動化ツール
データの抽出(Extract)、変換(Transform)、格納(Load)という一連のプロセスを自動で実行するツールです。AI・機械学習などによって抽出元のデータ構造を自動分析し、格納先での蓄積に最適な構造へと変換処理をおこないます。人の手による作業を極限まで減らすツールとして期待されていますが、現状、変換処理の自動化については特定のデータソースやロード先に限られるなど、まだまだ限定的です。
・データマネジメントプロセス統合管理ツール
先述のデータプリパレーションツールや、収集したデータを生の状態で保管するデータレイク、分析用に変換された整形データを保管するデータウェアハウスなど、データ処理にかかわるシステムを統合管理するツールも活用されています。統合管理ツールを導入することで、以下のようなメリットを得ることができます。
- プロセス間でのデータの受け渡しを自動化し、デリバリーの時間を短縮できる
- 新しいデータソースからのデータ抽出や保存先の変更など、データ処理フローの管理運⽤をシームレスにおこなえる
- データデリバリーの⼀連のプロセスを俯瞰的に観測し、エラーやボトルネックの要因を特定することができる
データウェアハウスとデータレイクについては↓の記事で詳しく解説しています。
「データウェアハウス」と「データレイク」の違いとそれぞれの特徴|SmartStage
ここまで紹介したデータ処理プロセスの自動化や統合を支援するツールに加えて、データ分析を効率化するツールも活用されています。
・セルフサービスBI
従来のBIツールよりも操作が簡単で、ドラッグ&ドロップなどの直感的な操作や、必要な項目を選択していくだけで、データの可視化や抽出、グラフ作成、レポート作成などが可能です。専門知識を持たない業務部門のユーザーでもデータ分析をおこなうことができるようになるので、よりスピーディーに現場やビジネスのニーズに即した分析を実現することができます。
参照:データマネジメントの⾼度化に対応するためのDataOpsの導⼊ 俊敏で柔軟なデータ処理を可能にする新しいデータマネジメント⼿法|独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)
参照:DX白書 第5部DX実現に向けたITシステム開発手法と技術|独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)
生成AI時代の新たな役割
今回はDataOpsに関する基礎知識を紹介しましたが、近年、GenAIOpsは新たな展開を見せており、データ品質が出力の成果に大きく影響する生成AIにおいて、AIモデルの開発・運用の最適化を目指す「GenAIOps(Generative AI Ops)」というアプローチの中核を担う役割としても注目が高まっています。また、生成AIを活用したDataOpsプロセスの高度化も広がっていくはずです。
DataOpsは、データマネジメントを効率化・高度化することにより、自社のデータを事業に直接貢献する資産として、その価値を最大化することを目指す取り組みです。ツールや技術の導入だけでなく、体制面の変革など、求められる取り組みは多岐にわたりますが、ビジネスに資する組織への変革を目指すIT部門にとって、決して無視できない、積極的に検討すべきアプローチと言えるでしょう。