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2025.05.06
更新日:
2025.05.06
全2回 “ITのお守り役”から“経営・事業のパートナー”へ——IT部門を変える「企画力」 《連載:第1回》 なぜIT部門に「企画力」が求められているのか?
テクノロジーの急速な進化や市場環境の変化などにより、近年、IT部門を取り巻く環境は大きく様変わりしています。環境が変わったということは、当然ながら、IT部門自身も変革のタイミングを迎えていると言えるでしょう。実際に現在、さまざまな場所やメディアで、IT部門に求める役割やスキルがあらためて問い直されています。
IT部門が企業成長の「ブレーキ」に
かつて、IT部門といえばシステムの運用・保守を担う“裏方的な存在”という見方が一般的でした。もちろん例外はあるものの、システム開発においても、「ユーザー部門から依頼されたものを、依頼された通りに作る」という受け身のスタンスが当たり前であり、自ら主体的に動いたり、提案をおこなったりすることはほとんどありませんでした。
こうしたIT部門のスタンスや在り方については、時に「システム・インフラの“お守り役”」などと揶揄されることもありましたが、それでも業務自体はIT・デジタルの専門家でなければ担えないものであり、現場の担当者の間でも「お守り役で良し」という現状肯定的な空気があったのも事実です。
しかしここ数年で、状況は大きく変わりつつあります。クラウドやAIなどの技術革新、そしてそれに伴うデジタルトランスフォーメーション(DX)の波によって、こうした従来のIT部門の姿勢が、企業の成長を阻む“ブレーキ”となりつつあることが明らかになってきました。
その一例が、デジタル時代の最も重要な経営資源である「データ」を有効活用できないという問題です。全体最適の視点を欠いたまま、ユーザー部門の要望に応じてシステムを構築・改修し続けた結果、システム間でのデータ連携ができず、情報がサイロ(孤立)化してしまっている企業は少なくありません。
こうした背景を踏まえ、今、IT部門にはこれまでとは異なる新たな役割が求められています。それは一体、どのようなものでしょうか?
「企画力」がIT部門を変える
現在、経営者や経営層がIT部門に期待する役割は、従来のような“IT・デジタルの専門集団”にとどまりません。“IT・デジタル推進の旗振り役”として、または経営方針に基づいたIT戦略を構想・実行できる“経営・事業の戦略的パートナー”として、企業の競争力強化に寄与する役割です。
実際、こうした動きは先進的な企業を中心に広がりつつあります。例えば、総合人材サービス大手のパーソルホールディングス株式会社では、IT部門が人事関連データのデジタル化を主導。これまで人事部門が手作業で集計していた、グループ会社35社・社員約6万人分のデータを一元的に蓄積・分析する基盤を構築し、グループ全体でのデータの即時共有や、より高度な人事データの分析を実現しています。
※参照:パーソルグループが、2022年度「IT奨励賞(マネジメント領域)」を受賞~パーソルグループ社員約6万人の人事データ基盤を構築~|パーソルホールディングス株式会社
そして、このようなIT部門の進化・変革に欠かせないスキルの1つが、今回の記事のテーマである「企画力」です。
企画力は、主体的・積極的なスタンスが求められるスキル。JUAS(一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会)が公表した『企業IT動向調査報告書2023』でも、事業部門の変革やサービスの創出において、売上高が大きい企業や売上高成長率が高い企業ほど、IT組織が企画段階から積極的に関与している傾向の高いことが明らかになっています。
※参照:企業IT動向調査2023(p.133)|一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会
また、受け身体質の情シス部門を変革するために部内に「IT企画室」を設けた企業や、企画人材を増やすために運用・保守業務をほぼ丸ごと外部ベンダーへ移管した企業など、IT組織の企画力向上を推進する企業も増えてきています。
「企画力」=「ひらめき力」ではない
IT部門の企画力が求められる領域は、非常に多岐にわたります。思い付くままに挙げるだけでも、新規システムの導入・開発、データの効果的な利活用、新規ビジネスの創出、既存ビジネスの収益性向上、さらには業務プロセスや組織の改革につながる先端技術の実装提案などがあります。
ただし、ここで言う「企画力」とは、一般にイメージされるような、独創的で型破りなアイデアを生み出す“ひらめき型”の能力を指すものではありません。
もちろん、そうした発想力があるに越したことはありませんが、IT部門においてはそれ以上に、「自社のビジネスや業務、組織の現状・課題を正しく把握した上で、戦略的なIT活用策を立案・提案し、課題解決や新たな価値の創出につなげていくスキル」が求められています。つまり、「課題発見力」と「実現力」こそが、IT部門における企画力の要と言えるのです。
次回の第2回目記事では、効果的な企画を生み出すためのポイントや、企画をプレゼンする際に使える実践的なノウハウを紹介します。