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2025.02.26
更新日:
2025.03.04
全2回 DX時代のIT部門に必須!業務改善を成功に導く2つのフレームワーク 業務改善のファーストステップに欠かせない「BPMN」
以前のIT部門は企業における「ITの専門家」としての役割が中心でしたが、近年は求められる役割の拡大・多様化に伴い、ITに限らず幅広い知識の習得が求められるようになっています。今回のテーマである業務改善ノウハウも、DX時代のIT部門にとって欠かせない重要な知識の1つです。
DX時代のIT部門に業務改善知識が必要な理由
業務改善とは、簡単に言えば業務プロセスの「ムリ」「ムダ」「ムラ」を省いて効率化を図る取り組みを指します。メリットの1つが、ノンコア業務の負担を軽減し、コア業務に注力する時間を確保できるようになること。IT部門においても、IT戦略の提案やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進といった「企業成長に直結する業務」に関わっていくための重要な取り組みとなります。
といっても、「人員削減だ」「ITツール導入だ」などと場当たり的に着手したところで、大した成果は期待できません。業務改善を効果的に進めるためには、まず現状の全体像を把握し、課題やボトルネックを洗い出した上で最適な解決策を講じる必要があります。そして、この一連のプロセスを体系的かつ効率的に進めるために役立つのが「フレームワーク」です。
現状把握・課題抽出を効率化する「BPMN」
業務改善の最初のステップとして欠かせないのが現状把握と分析。そのために有効なのが業務フロー図の作成です。業務フロー図は業務開始から終了までのプロセスをフローチャート形式で表したもので、全体像を視覚化することで課題やボトルネックを特定・共有しやすくなります。業務フロー図のフレームワークにはいくつかの種類がありますが、業務改善に最適なのは「BPMN(Business Process Model and Notation)」という表記法です。
BPMNはビジネスプロセスモデルの表記に関する国際標準(ISO19510)の表記法。2005年にアメリカのIT 系標準団体が初版を公表し、2011年には同じくアメリカの OMG(Object Management Group)という標準化団体が2版となるBPMN2.0をリリースしています。日本でも、民間企業や官公庁・自治体などで広く活用されています。
BPMN図(イメージ)
業務改善にBPMNを活用するメリットは次の通りです。
(1)表記ルールが明確に定められている
企業によっては担当者が独自の形式で業務フロー図を作成することもめずらしくありませんが、表記ルールが定まっていないと、関係者間での誤解やコミュニケーションギャップの原因となる恐れがあります。BPMNは標準化された表記法を使用するため、ルールさえ習得していれば誰でもスムーズに内容を理解することができます。
(2)複雑な業務プロセスも対応できる
BPMNは業務に関わるシステムやデータ、部門間及び企業間の連携などもわかりやすく視覚化することが可能。シンプルな業務フローから大規模なシステム開発プロジェクトまで、活用目的に応じて表記の粒度を変えられます。
(3)DXにおける業務変革にも有効
DXで不可欠な業務プロセス変革の基盤となるツールがBPM(ビジネスプロセス管理)ツール。BPMNに準拠したBPMツールなら、作成したBPMNをそのまま実装して業務プロセスの自動化や管理に活用することができます。
BPMNの構成要素
続いて、BPMNで使用する基本的な図形・記号を紹介します。
・スイムレーン
BPMNでは、担当者(担当部署)の役割や関係者間での相互関係を明確化するために、それぞれが関わる業務プロセスを水泳競技におけるレーン(仕切り)のように分割して記述します。ちなみにフロー図全体は「プール」と呼ばれます。
・イベント
「開始イベント」は業務フローの開始を、「終了イベント」は業務フローの終了を示す記号です。メールのアイコンが入った「メッセージイベント」は、通知や依頼のメッセージの受信により業務がスタートすることを示します。
・タスク
具体的な作業内容やアクションを表す記号で、枠内に作業内容を記載します。左上に人のアイコンが入った「ユーザータスク」は人がシステムを使用して実行するタスクを、歯車のアイコンが入った「サービスタスク」は人が介入せずにシステムが自動で実行するタスクを指します。
・ゲートウェイ
業務フローの分岐ポイントや結合ポイントで使われ、条件に基づいて判断・意思決定がおこなわれることを示す記号です。×が入った「排他ゲートウェイ」は複数のタスクの中から1つを選択する際に、+の入った並列ゲートウェイは複数のタスクを同時進行する際に使われます。
・フロー
イベントやタスクを繋ぐ矢印を「フロー」と呼びます。実線の「シーケンスフロー」は業務の流れ、破線の「データ関連」はデータや帳票、書類の流れを示します。
・その他
「データオブジェクト」はデータや帳票、書類を表し、「データストア」は情報システムなどに保存・蓄積しているデータ群を表します。
BPMN図の書き方
BPMN図は一般的に以下のような流れで作成します。
(1)関係者にヒアリングし、業務の内容や状況を洗い出す(外部とのやりとりやイレギュラー処理も含む)
(2)スイムレーンを作成し、業務プロセス名、担当部署・担当者名を記載
(3)各レーンに作業を記載(データが関わる場合はデータオブジェクトやデータストアを記載)
(4)各作業(及びデータオブジェクトなど)をフローでつないでプロセスの流れを記載
(5)条件による分岐が生じる場合はゲートウェイを記載
BPMNはExcelやPowerPointでも作成することはできますが、BPMN作成機能を持つツールを使うとより便利です。例えば『Microsoft Office Visio』にはBPMN2.0に準拠したスイムレーンや図形・記号のテンプレートが用意されており、ドラッグ&ドラップで容易にフロー図を描くことができます。
下図は、デジタル庁の資料をもとに、地方公共団体における証明書の交付業務のプロセスを描いたBPMN図です。ここまで紹介した知識で十分内容を理解できるのではないでしょうか。
出典:『地方公共団体の基幹業務システムの標準仕様における業務フローについて』(デジタル庁)をもとに作成
BPMNで現状を把握し、課題を特定したら、次のステップは改善策の検討・策定です。次回第2回目記事では、その際に役立つフレームワークを紹介します。