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2024.10.22
更新日:
2024.10.22
全2回 組織変革もサービス創出も実現——活発化する企業のデータ活用 《連載:第2回》 業界の常識も覆す!社外向けデータ活用事例
収集・蓄積できる量と種類が増えたことで、活発化している企業のデータ活用。前回記事では、従業員データや画像データを活用した社内向けの取り組みを取り上げました。2回目となる今回は、マーケティングや新規サービスの創出など、社外向けのデータ活用事例を紹介します。
商品購入行動調査におけるアイトラッキングデータ活用事例
アイトラッキングデータとは、専用のカメラやセンサーを使って取得する視線追跡(視線計測)データです。取得したデータを測定・分析することで、ユーザーが「どの部分をどの順序で、どのくらいの時間見ているのか」を知ることができます。
一般的には屋外広告やデジタルサイネージの効果測定、Webサイトの改善などに活用されていますが、清涼飲料メーカー大手のダイドードリンコ株式会社では、自動販売機でのユーザーの商品購入行動の調査に導入しました。
調査では消費者アンケートも併せて実施。そして収集したデータを分析したところ、驚くべき結果があらわれました。それまで、「人間の視線は左上からZ字型に動く傾向がある」とされ、自動販売機の商品サンプルは左上に人気商品を置く配列が定番でしたが、その手法が効果的でないことが明らかになったのです。
実際に分析結果にもとづいて配列を改めたところ、売上は増加。既存のルールや常識を疑うきっかけをもたらしてくれることはデータの効用の1つですが、まさにそのことを示す好例です。
※参照:お客様満足向上への取り組み|ダイドードリンコホールディングス株式会社
※参照:情報通信白書 平成27年版|総務省
マーケティング・人員配置最適化のための位置情報データ活用事例
位置情報データとは文字通り、人やモノの位置を表すデータです。Wi-Fiやスマホに組み込まれたGPSなどから収集することができ、マーケティングや商圏分析、タクシー配車アプリ、ゲーム、都市開発など、さまざまな分野で活用されています。
アプローチ方法も多岐にわたっており、例えばマーケティングにおいては、ターゲット層の過去の移動履歴を取得することで興味・関心の傾向を知ることが可能です。実際に、特定エリア内の自社サービスに関心が高いと想定される潜在顧客を対象に広告やクーポンを配信する、「ジオターゲティング」という手法も注目を集めています。
また、AIを使った高度な分析によって、人間では導き出せない知見やノウハウを得られるケースもあります。その1つが、あるホームセンターが実施した実証実験です。
実験の目的は、顧客単価向上のための店員配置の最適化でした。収集したのは、センサーで取得した顧客と従業員の位置(行動)データ、POSの売上データ、商品の陳列データなど。それらを協力会社が開発したAIシステムが分析して導き出した答えが、あるスポットへ店員を重点配置すると売上が上がるというものでした。そして、その通り配置したところ、本当に顧客単価が10%以上アップしたのです。
顧客インサイト分析のためのSNSデータ活用事例
某大手航空会社では、マーケティングや業務改善を目的にソーシャルリスニングに取り組んでいます。ソーシャルリスニングとは、SNSやブログ、口コミ掲示板上の膨大な投稿・コメントから、自社に関する情報を収集・分析するアプローチです。主に顧客インサイト(潜在的な欲求)を得るために活用されています。
SNSといってもさまざまなメディアがありますが、同社ではX(旧:Twitter)に重点を置き、定量・定性分析を実施。定量分析では、一般ユーザー発信の投稿だけでなく、自社公式アカウントの投稿やキャンペーン施策、メディア掲載などに対する反応をすべてBI(ビジネスインテリジェンス)ツールに集約し、影響度の評価や次回の施策の改善につなげています。
他方、定性分析については一転してアナログ的なアプローチを実施しています。具体的には、自社に言及している投稿をすべて専用のシステムで収集~ダウンロードした後、担当者が1日あたり1,000~1,500件ほど目視で確認。共有が必要な情報は社内配信したり、関連部門に伝えて備品やサービス改善、商品展開につなげたりと役立てています。
同社が現在も同じやり方をおこなっているかどうかは不明ですが、技術の進歩によってテキストデータの活用が進んでいるとはいえ、SNSの投稿文に込められた微妙なニュアンスを汲み取るには、まだまだ人間の判断が必要ということなのかもしれません。
新サービス創出における物理現象データ活用事例
社内向けデータ活用の成果を新規サービスの創出につなげている企業もあります。
経済産業省が中小企業のDX優良事例を選定する『DXセレクション2022』で、グランプリを受賞した株式会社山本金属製作所。金属部品の切削加工を手掛ける同社が取り組んだのは、自社熟練作業者の持つ「暗黙知」のデータ化でした。
切削加工をおこなう際は、切削速度を始め、さまざまパラメータを入力する必要があり、どれか1つでも変更になると品質に影響を及ぼします。にもかかわらず、明確なノウハウは存在せず、熟練作業者の経験と勘に頼ることがほとんどだったのです。
そこで同社は、加工時に発生する熱や振動、負荷などの物理現象を「数値化=見える化」するため、センサーを搭載した独自のシステムを開発。データの蓄積・分析を重ねることで、経験の浅い技術工でも最適な加工条件や加工の良し悪しをリアルタイムで判断できるようになりました。
熟練技術者の技術継承は業界全体の課題。その後、同社はこの一連の取り組みで築いたセンシングやモニタリングのノウハウを活用し、他社の同様の課題を解決するサービス事業を展開しています。
※参照:Go-Techナビ|中小企業庁
※参照:MULTI INTELIGENCE ®|株式会社山本金属製作所
データ活用はIT部門の「価値」を創出するチャンス
以上、2回にわたって企業のデータ活用事例を紹介してきました。それぞれ手法も規模も異なりますが、いずれも現状把握や業務効率化にとどまらず、データによって新たな「価値」を創出した見事な事例と言えるでしょう
当然ながら、こうしたデータ活用を実現するためには、技術面だけではなく、IT部門も変化が必要です。少なくとも、ただ事業部門の要望に応じてデータを収集したりレポートを提供したりするような、受け身の姿勢では戦力にはなれません。
IT部門に期待されるのは、単なるサポートではなく、推進部門との「協働」。目的実現につながるデータの明確化や掘り起こし、分析や意思決定に適した形へのデータ加工、実証実験または施策実施後の検証・改善への参加など、あらゆるフェーズにIT部門が関与することで、施策のスピードとクオリティは向上します。
先述の通り、ビジネスに新たな価値をもたらすことができるのがデータ活用の大きなメリットですが、IT部門にとっても、部署の新たな価値を生み出すチャンスと捉え、積極的に取り組むべきでしょう。