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  • システム運用

2023.06.01

 更新日:

2023.02.28

全2回 運用保守からDXまで――IT部門が押さえておきたい評価指標(KPI)と評価手法 《連載:第2回》 KPI設定でコスト削減や費用対効果よりも重視すべきポイントとは?

KPI設定でコスト削減や費用対効果よりも重視すべきポイントとは?

システムや業務に関する指標を取り上げた前回記事に続き、今回はIT投資やDX(デジタルトランスフォーメーション)など、より経営やビジネスとの関連性が高い指標を紹介します。

IT投資に関する指標

〈TCO〉(Total Cost of Ownership:総保有コスト)

システムのライフサイクル全体を通して掛かるコストの総計を表す指標です。購入・設置費のようなイニシャルコストだけではなく、運用保守、アップグレード、ユーザーへの教育(ヘルプデスクも含む)などに掛かるランニングコスト、さらに障害の対応・復旧にかかる人件費などもシュミレーションして算出します。

特にERPパッケージやクラウドサービスの普及によって運用コストの割合が増大するようになってから、IT投資やシステムの採算性を評価する際に重視されています。

続いてIT投資を判断・評価する代表的な手法を2つ紹介します。

〈NPV法〉(Net Present Value:正味現在価値)

将来、投資対象から得られる「収益(キャッシュ・インフロー)の価値」と、「投資額の現在価値」を比較して投資の妥当性を判断する手法です。事業投資やM&A(企業・事業の合併や買収)の採算性を評価する際にも活用されています。

「現在価値」とは、例えば〈現在の100万円〉と〈1年後の100万円〉を比較すると、〈現在の100万円〉は1年後には利子がついて100万円以上になるため、〈1年後の100万円〉よりも価値が高いとする考え方です。また、下の表の場合、A~Cの投資いずれも投資額と3年目時点の回収額の合計は同額ですが、現在価値の視点では早く大きな金額を得られるBが最も投資効果の高いシナリオとみなされます。

〈NPV法〉(Net Present Value:正味現在価値)

ここでは詳しい計算式は割愛しますが、実際には将来の収益を現在価値に換算し、そこから投資額を引いて「正味現在価値」を求め、その額が0以上かどうかを判断基準とします。NPV法のメリットとしては、現在価値に換算することにより時期や期間の異なる投資案件を一元的に比較できる、採算性を簡単に判断できることなどが挙げられます。

〈ITバランススコアカード〉

経営管理で活用されているバランススコアカード(BSC)というフレームワークを応用した手法です。バランススコアカードとは、企業のビジョンと戦略を実現するために「財務」「顧客」「(内部)業務プロセス」「学習と成長」という4つの視点から業績を評価・分析するもの。ITバランススコアカードでも同様に、4つの視点ごとにシステム導入によって期待される効果をリストアップし、それぞれに定量的な業績評価の指標を設定します。

ITバランススコアカードを用いるメリットは、金額換算が容易でない効果を含めてIT投資の効果を把握できることや、経営・事業戦略とIT投資の整合性を図ることが可能なことなどです。

その他、システムの経済性を測る手法としては、金融ポートフォリオを応用した〈ITポートフォリオ〉という手法も活用されています。詳しい活用法は、経済産業省の『業績評価参照モデル(PRM)を用いたITポートフォリオモデル 活用ガイド』という資料で紹介されています。

DXならではのKPIと留意点

DXのKPIを設定する上で参考になるのが、経済産業省が2019年に発表した『「DX 推進指標」とそのガイダンス』です。同資料によると、新事業創出や組織変革といった「価値の創出」を本質とするDXにおいて重要なのは、短期的なコスト削減やシステムどうこうではなく、「ビジネスがうまくいったかどうかで評価する仕組み」を構築すること。その一例として、下の表内の指標が挙げられています。

ITシステム構築の取組状況に関する定量指標

※出典:「DX 推進指標」とそのガイダンス|経済産業省

いずれも“DXならではの指標”と言えますが、とりわけ「価値の創出」のためのベースともなるのが、一番上の「ラン・ザ・ビジネス予算とバリュー・アップ予算の比率」でしょう。ご存じない方のために説明すると、ラン・ザ・ビジネスは「現行ビジネスの維持・運営」、バリュー・アップは「ビジネスの新しい施策展開」を意味します。

当然ながら、2つの予算のうち、重視すべきはバリュー・アップ予算です。同資料でも、「経営としてのDXへのコミットメント度合いの重要な指標」、「DXの推進や技術的負債の低減に向けては、ラン・ザ・ビジネス予算に比してバリュー・アップ予算の比率を高めることが経営課題となる」といったように、その重要性が強調されています。

ちなみに、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の『企業IT動向調査報告書 2022』(2021年度調査)によると、国内企業のラン・ザ・ビジネス予算対バリュー・アップ予算の比率は 76.4%対23.6%。現状はまだまだラン・ザ・ビジネス優勢といった状況ですが、売上100億円未満の企業においてバリュー・アップ予算の比率が最大の伸びを見せていること、「3年後の目標」という回答では平均34.4%となっていることなどから、今後の底上げが期待されます。

また、経済産業省の資料には、こうした指標と併せて指標設定における留意点もいくつか記載されています。中でも注目したいのが、「定量的なリターンやその確度を求めすぎて挑戦を阻害しないようにすること」、「挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続するのに適したKPIを設定する必要」といった指摘です。

繰り返しになりますが、DXの本質は「価値の創出」。業務のIT化・デジタル化などとは違い、すぐに成果が現れるとは限りません。当然、失敗や修正も付きものです。KPIにこだわるあまり、そうしたチャレンジングな取り組みが疎かになってしまっては本末転倒でしかありません。上の表では「アジャイルプロジェクトの件数」が挑戦を促すKPIに該当しますが、場合によってはもっと失敗を歓迎・評価できるような指標を考えてみるのも良いでしょう。

目的や戦略が変われば、最適な指標の性質も変わります。今回様々な指標を紹介してきましたが、特に経営やビジネスとの距離が近ければ近いほど、コスト削減や費用対効果に固執せず、柔軟に指標を設定することが重要と言えるでしょう。

全2回運用保守からDXまで――IT部門が押さえておきたい評価指標(KPI)と評価手法

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SmartStage編集部

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