- 働き方改革
2023.06.01
更新日:
2021.12.28
全2回 IT部門が働き方改革をリードすべき理由 《連載:第2回》 働き方改革はIT部門のチャンス
DX(デジタルトランスフォーメーション)の拡がりとともに、企業の働き方改革においてもITツールや先端テクノロジーの活用が進んでいます。今回はそうした事例とともに、働き方改革におけるIT部門の役割についても解説します。
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テクノロジーを活用した働き方改革事例
導入や操作が比較的容易であることから、現在、多くの企業で普及が進んでいるのがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。RPAとは、データ入力や表計算、資料作成、Web検索など、従来手作業でおこなっていたパソコン業務を自働化できるITツール。例えば総務省のホームページでも、働き方改革に効果的なテクノロジーの一つとして、下記のような大手都市銀行の活用事例とともに紹介されています。
大手都市銀行のRPA活用事例
RPAの導入目的は、20種類に及ぶ煩雑な事務処理作業を自動化することでした。その結果、年間で8,000時間(一人1日8時間労働換算で約1,000日分)の業務時間削減に成功。事務担当者が他の重要な業務に稼動時間を充てられるようになったそうです。
参考:総務省「RPA(働き方改革:業務自動化による生産性向上)」
RPAのような既存のITツールではなく、自社開発の独自ツールで働き方改革を成功させている企業もあります。
株式会社クラスコの自社開発ITツール活用事例
株式会社クラスコは石川県金沢市の不動産会社。DXにも積極的に取り組む同社は、働き方改革に向けて自社で業務改善用ITツール(『crasco ReTech』)を開発。全体残業時間は46%削減、年間休日は26日増加とワーク・ライフ・バランスを実現させただけでなく、従業員一人当たりの労働生産性を3年間で2.2倍に向上させています。
前回テンポスホールディングスのユニークな人事評価制度を紹介しましたが、経済産業省と東京証券取引所が選出する「DXグランプリ2021」に選ばれた株式会社日立製作所は、先端テクノロジーを活用して人事評価と環境づくりの二つの改革に取り組んでいます。
株式会社日立製作所のAI、ビックデータ分析活用事例
同社が現在取り組んでいるのは、“効率向上”より一段階上の、一人ひとりが最適に配置された環境で“価値創出”できる働き方とのこと。そしてその仕組みづくりに活用されているのがAIとビッグデータ分析です。
具体的には、個々の生産性や配置部門に対する満足度などを独自のサーベイで定量化し、さらにAIで属性や勤怠情報を含めた行動データを掛け合わせて分析、その結果をもとに1on1ミーティングを実施したり、人事施策に反映したりしているということです。
簡単に言うと「データに基づく個人の意識の見える化」ですが、こうした仕組みを構築することで、一人ひとりの生産性を妨げている要因や配置配属のフィット&ギャップがはっきり把握できるとのこと。働き方改革も他の制度改革と同様に画一的なものになってしまう傾向にありますが、同社の場合はあくまで「個」にフォーカスした貴重な事例と言えるでしょう。
参考:株式会社日立製作所「ニューノーマル時代に立ち向かうDX実現の勘所とは」
一歩先、ニ歩先を見すえた取り組みを
以上紹介したRPAやAIは、いずれもDXの基盤とも言えるテクノロジーですが、そもそも「ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革」(経済産業省『DXガイドライン』)することがDXの目的であることを考えれば、今後DXの本格化とともにますます働き方改革におけるIT・デジタルの活用は活発化するはずです。
となれば、社内で働き方改革の中心となるべきなのは、従来の人事・総務部門ではなく、IT・デジタルの専門家であるIT部門でしょう。それも場当たり的・対症療法的な取り組みではなく、IT・デジタルだから実現できる、一歩先、二歩先を見据えた取り組みを提案できればベストです。
厚生労働省が2016年に発表した『働き方の未来2035』という報告書をご存じでしょうか? 有識者らが現在よりも少子高齢化や技術革新が進んだ2035年の社会と働き方を予測したもので、働き方改革の具体的な取り組みについて考える上でも非常に興味深い内容です。少し内容を紹介してみましょう。
まず、2035年には「時間や空間にしばられない働き方」はすっかり常識となっているようです。リニアによって都市間の移動時間は圧倒的に短縮されていますし、MR(複合現実) が進化して、遠隔地にいる同僚や顧客と実際に同じ部屋にいるかのようにコミュニケーションを取ることができるようなるからです。仕事選びにおいて、勤務地や居住地の優先度はかなり下がっているかもしれません。
それにともない、「働く人と企業との関係」も大きく変化しているようです。副業どころか“複業”が当たり前となり、評価指標として重視されるのは時間ではなく成果。そうなると、正社員と非正規社員、フルタイムとパートタイムの区別ももはや意味をなしません。加えて、性別や年齢、国籍、障害の有無などが、働く上で制約にならないように、AIやロボット、自動翻訳などのテクノロジーがフル活用されているはず。要は2035年には、今よりもっと一人ひとりが自分の望む形で働けるようになっているという訳です。
もちろん、今から2035年に向けた働き方改革を提案するのはさすがに非現実的ですが、それでも現状にばかりに目を向けているよりも、少しでも先の未来を想像して取り組みを考えたほうが、働く人がワクワクできる働き方改革を実現できるような気がしないでしょうか。
なにより働き方改革は、コストセンターとみなされがちなIT部門の価値を向上させるチャンスでもあります。前回も述べた通り、働き方改革はSDGsやESGなどと同じく、これからの企業にとって重要な取り組み。その取り組みをIT部門がリードして成功させたとき、自社にとって必要不可欠な部署になっていることは間違いないはずです。