コラム
NoOpsとは? 定義やメリット、実現するために必要なポイントを解説
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人力でのシステム運用作業の最小化を目指す「NoOps」が注目されていますが、具体的にどのような取り組みなのか分からない方も多いでしょう。
システム運用はサーバー監視やパッチ適用、障害対応など、多くの手作業に追われることに加え、IT人材の不足による人的リソース不足も相まって、本来の業務に集中できない傾向にあります。NoOpsは運用にかかる負担を大幅に軽減して、新たなビジネスの創造や業務効率改善など「攻めのIT」に注力しやすくするアプローチです。
本記事では、NoOpsの定義や実現するメリット、実現に必要なポイントなどについて解説します。運用保守の手間を削減して人的リソースを確保したい方は、ぜひ参考にしてみてください。 -
NoOpsとは?
NoOpsとは、"No Operations"の略で「人力でのシステム運用作業の最小化」を目指す継続的な取り組みのことです。「No Uncomfortable Ops(システム運用のうれしくないことをなくそう)」という意味もあります。
従来、システムの運用保守は、夜間の緊急連絡や休日出勤が担当者の当然の負担であると認識されてきました。同時にシステムの運用保守のためには、利用者が「システムの一時停止」で不便になるのも仕方がないという考えが一般的でした。
NoOpsでは、こうした運用監視や障害対応時に発生する作業をできるだけ自動化したり、そもそも障害を未然に防いだりして、人的リソースやコストの削減・最適化を目指します。NoOpsの定義
NoOpsを推進するコミュニティ「NoOps Japan」では、NoOpsを以下のように定義づけています。
No Uncomfortable Ops(システム運用のうれしくないことをなくす)を目指すための技術やアーキテクチャ、それを実現するための活動のことを指します。このアプローチの代表例に、コンテナを活用した高回復性設計、DevOpsの活用、モニタリングと構成設定の自動化、SREによるToil削減活動、などがあります。
※出典:NoOps Japan「NoOps Definition v1.0」
人力でのオペレーションを完全になくすのではなく、ルーティンワークや深夜・休日のシステム障害対応など、無駄な業務を自動化して、担当者はより重要な業務に時間を割けるよう最適化を図る取り組みがNoOpsです。NoOpsの歴史
NoOpsは、DevOpsという言葉に付随する形で2011年頃に登場したものです。過去にはNoOpsという言葉のインパクトの強さから、エンジニアが不要になる取り組みであると誤解されたこともあります。しかしNoOpsは「システム運用のうれしくないことをなくす」ことが目的のため、運用者であるエンジニアは変わらず必要です。
むしろエンジニアの負担を軽減し、本来注力すべき業務へ集中しやすくするための考え方であるので、エンジニアの助けになるものと認識しておきましょう。NoOpsが求められている理由
NoOpsが求められている理由として、人手不足のIT業界の中でもシステムの運用・管理業務は、特に人材確保が難しいとされている現状が挙げられます。
システムの運用・管理業務の担当者は、下記のような労働環境になってしまいやすいです。
● 24時間制のシフト勤務
● 夜間の緊急連絡・休日出勤などが多い
● 障害発生時には長時間対応しなくてはならない など
プライベートを確保しにくい労働環境であるため、人材が集まりにくく離れやすくなっているのが問題視されています。またルーティンワークなどの仕事量が多く、数少ない人材が注力すべき業務に集中して取り組めないのも問題です。こうした問題を解決するため、NoOpsによりオペレーション業務の一部を自動化する動きが求められています。 -
NoOpsのメリット
なぜNoOpsに取り組むのか、得られるメリットは大きく以下の2つがあります。
● オペレーションの手間とリソースを削減できる
● システム停止を抑えて利用者に貢献できる
どちらのメリットも、自社とクライアント双方に利益をもたらします。オペレーションの手間とリソースを削減できる
NoOpsにより、ルーティンワークや人の手でなくてもできる単純作業を機械に任せることで、余計な手間やリソースを削減できます。
日々のルーティンワークや単純作業は、一つ一つは小さくても積もり積もれば多くの時間を割かれ、担当者の手が回らなくなってしまいます。こうした作業を自動化すれば、業務負担を軽減可能です。
例えば新たなビジネス・サービスの創造や業務効率の改善といった、企業の利益につながる「攻めのIT業務」へ時間を割きやすくなります。
またシステムの24時間監視が不要になったり、障害・故障発生による緊急対応を減らしたりと、不要な稼働を減らせることで担当者の休日出勤・夜間対応などが削減され、働きやすい労働環境を実現できるのもメリットです。
労働環境が改善されることで、貴重な人材の流出を防げるのはもちろん、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。人材難が叫ばれるIT業界でも、求職者に選ばれやすくなります。システム停止を抑えて利用者に貢献できる
NoOpsの導入によりシステムの停止時間を大幅に削減でき、サービス提供を継続できユーザー体験の向上につなげられます。
これまでは一般的に障害が発生すると、アプリやWebサイトなどのサービスを一時停止させてメンテナンスを行うのが基本でした。当然ながらユーザーはアクセスできなくなり、円滑なサービス利用の妨げになってしまいます。
しかしNoOpsではシステムに自己修復機能を持たせることで、部分的なシステムダウンであれば自動的に復旧させることが可能です。機械が素早く問題を見つけて解決してくれるので、システム停止の防止や早期復旧が実現し、サービスの稼働率を向上させられます。
またストレスを感じさせることなくサービスを利用してもらえるため、ユーザーやクライアントからの評価を損ねません。企業の信頼性の向上にもつながります。 -
NoOpsのデメリット
大きなメリットのあるNoOpsですが、導入する上でデメリットもあります。
● 初期費用がかかる
● 実現までに時間がかかる
デメリットも把握した上で、NoOpsの導入を検討しましょう。初期費用がかかる
NoOpsでは既存のツールやサービスだけで運用業務の自動化は難しく、初期費用がかかる可能性が高いです。初期費用がかかる理由としては、3つの要因が挙げられます。
1つ目は、新規システム・ツールの導入費用です。利用するサービスによっても異なりますが、中には月額数万円以上のサブスクリプションサービスもあり、システムやツールの導入・維持にコストが発生します。場合によっては、既存システムとの互換性を確保するために費用が発生する可能性もあるでしょう。
2つ目は、専門人材の確保です。NoOpsの導入や運用、改修などの知識・技術を持った人材が必要で、社内で適切な人材が不足している場合は外部から専門家を招いたり社内教育によって今いる人材をスキルアップさせたりしなくてはなりません。
3つ目は、新規運用体制への移行コストです。NoOpsへ移行するために、新しいルールや手順など、マニュアルを策定する時間と労力が必要です。実現までに時間がかかる
NoOpsはすぐに導入できるわけではなく、実現までに一定時間がかかるのもデメリットです。
例えば、複数のシステムからどれを導入するか検討する時間や、現行のシステムから移行する時間、実際に運用して慣れるまでの時間など、NoOpsが実現するまでには、多くの手間と時間がかかります。
すぐに目に見えた成果を体感できるものではなく、導入や運用までには時間がかかるのを前提に、じっくりと進めていかなければなりません。
また時間をかけて導入しても、実現できない課題もあります。NoOpsは必ずしも万能ではないため、自社で抱える課題をリストアップし、NoOpsで解決可能な課題なのか事前に検討しておくことも大切です。 -
NoOpsを実現するための3つのポイント
NoOpsを実現するためには、主に以下の3つのポイントがあります。
● 課題を整理して人材を有効活用する
● あらゆるデータを集めて活用する
● 属人化業務を標準化させる技術を身に付ける
どれも押さえておきたいポイントなので、詳しく見ていきましょう。課題を整理して人材を有効活用する
NoOpsの実現には、現場のオペレーションがどのように行われて、どの部分に手間がかかっているのか課題を明らかにすることが重要です。
まずは自社や自部門が抱える課題を分類して「見える化」しましょう。顕在化した課題のうち、機械ができることは全て自動化し、人間はより付加価値の高い仕事を手掛けるようにするのがポイントです。例えば、重要でないアラートの確認や作業手順書からのコピー&ペーストなどは、機械に任せてしまうべき仕事でしょう。
課題が分かったら、解決に必要なスキルを持つ人材の確保・育成に取り掛かります。必要な知識やスキルを持つ人材が、適切に配置されているか見直すことも大切です。
こうした課題の見える化・人材の有効活用の際に、知っておきたいキーワードが「SER」と「Toil」です。SREにのっとったToilの削減とは?
SREとはGoogleが提唱しているシステム運用の方法論で、Webサイトやサービスの信頼性を向上させるために、システム運用におけるToil(手作業や反復作業)を自動化していく取り組みのことです。
例えば、システムの監視やログの確認、障害時の対応など、時間がかかる割には付加価値の少ない作業がToilに該当します。SREではToilを洗い出し削減することで、より価値ある作業への専念を目指します。
Toilを削減すれば、運用負荷の軽減だけでなく作業ミスも防げるため、結果的に組織全体の生産性向上につなげることが可能です。あらゆるデータを集めて活用する
社内のあらゆるデータを集めて、活用することもNoOpsの実現につながります。システムのパフォーマンスデータやユーザーアクセスデータ、エラーログ、モニタリングデータなど、社内データを適切に運用・分析できれば、さまざまな課題を解決しやすくなります。
例えば、エラーログは問題発生時の原因特定だけに使うのではなく、適切に収集・分析してAIに学習させれば、システムの安定運用やパフォーマンス向上を図ることが可能です。たとえ初めて起きた障害でも、過去に似た障害を学習していれば、対応手順がリコメンドされ運用担当者のスキル・経験に依存しない安定した対応が可能になります。
こうした社内データを今後のシステム障害に活かせるように、機械学習を進めましょう。属人化業務を標準化させる技術を身に付ける
属人化業務を標準化させる技術を身に付けることも必要です。個々のスキルや経験に依存した属人化した業務は、その人がいないと業務が停滞するかもしれません。
具体的な対策としては、属人化している作業を明確にして、該当の作業を自動化できるツールやスクリプトを利用して効率化します。既存ツールの活用だけでなく、AIをはじめとした新しい技術・考え方などを吸収し、柔軟に活用していくことで効率的に業務を標準化させられるでしょう。
属人化業務の標準化は、安定運用と効率化を両立できるようになるため、ビジネススピードの加速にもつながります。 -
NoOpsを実現するために必要なシステムは?
NoOpsを実現するためには、主に3つのシステムが必要です。どのようなシステムが必要になるのか、順番に解説します。
オペレーションを自動化するシステム
ルーティンワークや付加価値の低い作業などToilを削減するために、自社のオペレーション業務を自動化できるシステムの導入が必要です。
例えばCI/CDツールを導入すれば、コードの変更をすぐさま本番環境に反映させると同時に、システムのエラーを早期に発見してくれます。既存のツールやサービスだけで自動化できれば問題ありませんが、中長期的な視点で運用業務の効率化・簡素化を考えると、自律的に運用できるツールの導入がおすすめです。
前述したSREにのっとって、自社の課題となる手作業や反復作業を洗い出し、それらを自動化してくれる適切なツールを導入しましょう。システム障害を未然に防ぐシステム
システム障害を未然に防ぐために、システム自体にチェック機能・自動回復機能を搭載しておけば、障害発生によるシステム停止を未然に防げます。
障害発生時に、原因究明に時間がかかれば復旧が遅れてしまうため、システムが自動的に原因を検知できるシステムが必要です。
またオブザーバビリティ(可観測性)が高く、アプリケーションがデータを収集・可視化しやすい設計にしておくのも大切です。運用監視ツールでモニタリングしやすくなるため、障害時に自動で復旧させやすくなります。システム障害の原因を突き止めてくれるシステム
システム障害の原因を突き止めてくれるシステムを導入して、今後の改善につなげやすくすることも大切です。
NoOps以前は、いかに壊れないシステムを作るかが重視されていましたが、現在では障害が発生してもすぐに回復できることが重要です。システム障害の発生を前提として、原因を突き止めるシステムを導入して改善していくことで、作業の自動化に近付けられるでしょう。
また発生した障害の種類や原因を素早く見極められれば、短時間でのサービス復旧も可能です。 -
まとめ
NoOpsとは、人力で行うシステムの運用作業を最小化する取り組みのことです。運用監視や障害対応時の作業をできるだけ自動化したり、障害が起きたときに素早く問題を発見し解決したりして、人的リソースやコストの削減・最適化を目指します。
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