コラム
変更管理とリリース管理とは? ITILに基づく違い・目的・プロセスを分かりやすく解説
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ITサービスの品質維持や、迅速な改善、新機能の提供を実現するには、変更管理とリリース管理の適切な運用が不可欠です。
これらはITサービスの品質向上につながるフレームワーク・ITIL(IT Infrastructure Library)やITSM(ITサービスマネジメント)の中核プロセスです。変更管理はリスクを抑えつつ変更を統制する仕組み、リリース管理はその変更を安全に本番環境へ展開する仕組みとして機能します。
本記事では両者の目的や違い、導入によるメリット、運用時の注意点を詳しく解説します。さらにサービスデスクツールを活用して管理プロセスを定着・効率化する実践的なポイントも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
※この記事は2025年11月時点の情報です。 -
変更管理とリリース管理とは?
ITサービス運用において欠かせないのが変更管理とリリース管理です。どちらもITシステムの変更に関わるため混同されがちですが、それぞれの目的と役割は異なります。ここではその基本的な考え方や違いを詳しく解説します。
変更管理の定義と目的
変更管理(Change Enablement)は、ITILの構成要素に関する全ての変更を統制し、リスクを抑えながらITサービスを円滑に供給するプロセスです。
具体的には、以下のような管理の流れを指します。
・変更内容を示す「変更要求の受付」
・変更による影響範囲の「分析」
・変更によるリスクと影響度を評価する「承認」
・変更作業の「実行」
・変更内容の検証・確認を行う「レビュー」
これにより計画外の障害やサービスの停止を防ぎつつ、継続的な改善を推進できる環境を整備できます。
ただし承認手続きを複雑にしてしまうと意思決定が滞り、変化そのものを阻害するリスクがあるため注意が必要です。変更管理の本質は手続きを増やすことではなく、必要な統制によって秩序と安全性を保ちながら変化を実現することです。透明性の高いワークフローが求められます。リリース管理の定義と目的
リリース管理(Release Management)は、承認された変更を本番環境へ安全かつ確実に展開するプロセスです。
リリース管理には、下記のような項目が含まれます。
・リリース計画の策定(各システムや期限などの決定)
・リリースパッケージ化
・テストの実施、展開(本番環境への実装)
・検証(実装後のレビュー)
・変更作業が失敗した場合の巻き戻し方法(ロールバック対応)の検討と準備
実際の現場では、承認済みの変更であっても環境差異による不具合やリリース手順の不備による失敗がしばしば問題となります。両者の関係性と違い
変更管理とリリース管理は密接に連携しており、どちらも変更を扱う仕組みであることから混同されがちです。しかし、両者の目的と責任範囲は明確に異なります。
変更管理は「何を・なぜ変更するか」を判断し、リスクを統制する意思決定のプロセスです。一方リリース管理は変更を前提とした上で「どのように変更を実行するか」を制御・管理する作業を指します。
リリース管理は単なる変更の承認だけでなく、実行を統制する視点が欠かせません。変更を確実に成果へと結びつける最終段階の品質保証プロセスといえるでしょう。
この連携が不十分な場合、承認手続きの煩雑化による作業の遅延、担当間の責任分離による不具合対応の停滞などの問題が生じやすくなります。他にも、リリース計画と変更承認が確実に同期していないと、環境間でのズレが起こる原因になり得ます。
従って、変更管理による意思決定とリリース管理による実行を、シームレスにつなぐことが重要です。これにより、変化に強く安定したサービス運用基盤を実現できます。 -
変更管理とリリース管理が注目される背景
変更管理とリリース管理は、現代の企業活動において経営戦略やコーポレートガバナンスにも直結する重要なテーマです。ここでは、両プロセスが重要視される背景を3つの観点から解説します。
デジタル化と開発スピードの加速による変更頻度の増大
クラウド導入などによるDX(デジタルトランスフォーメーション)、DevOps(デブオプス)などによる開発スピードの加速により、企業システムの変更はかつてないスピードで発生しています。
経済産業省の調査でも、各企業のビジネスの変化やグローバル展開への迅速な対応が重視されており、変更対応は特別なイベントではなく日常業務の一部となりつつあります。
※参考:経済産業省.「デジタルトランスフォーメーション調査2025の分析」.https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/dx-bunseki_2025.pdf ,(参照2025-10-15).
アプリやインフラの更新、設定変更、新機能リリースなどが連続的に行われる現代では、変化を前提とした運用体制が欠かせません。変更によるリスクを抑えつつ、安定運用を維持する仕組みとして、変更管理とリリース管理の重要性が一段と高まっているのです。
※参考:経済産業省.「産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進施策について」.https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx.html ,(参照2025-10-15).頻発する障害・セキュリティリスクへの統制ニーズの高まり
リリースや設定変更のスピードが上がる一方で、設定ミス・テスト不足・構成の不整合などによる障害リスクが増えています。さらに、外部からのサイバー攻撃も巧妙化しており、変更・リリース過程におけるセキュリティの強化は喫緊の課題です。
内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)は、DXの浸透により攻撃対象が多様化・複雑化していると指摘しています。
またIPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2025」では、ランサムウェアやサプライチェーン攻撃の増加に加え、暗号資産の窃取を狙う攻撃増加、重要インフラへのDDoS被害の深刻化が報告されています。
このような背景から、変更管理やリリース管理はITサービスの国際規格・ISO/IEC 27001でも重要とされており、単なる運用手順ではなくリスクの可視化と統制の中核基盤として、整備が求められています。
※参考:内閣サイバーセキュリティセンター.「サイバーセキュリティ2025年次報告」.https://www.nisc.go.jp/pdf/policy/kihon-s/250627cs2025.pdf ,(参照2025-10-15).
※参考:IPA(独立行政法人情報処理推進機構).「情報セキュリティ10大脅威2025」.https://www.ipa.go.jp/security/10threats/eid2eo0000005231-att/kaisetsu_2025_soshiki.pdf , (参照2025-10-15).
※参考:経済産業省.「情報セキュリティ管理基準(令和7年改正版)」.https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/is-kansa/IS_Management_Standard_R7.pdf?utm_source=chatgpt.com ,(参照2025-10-15).SLA遵守・ガバナンス強化を求める社会的要請の拡大
顧客向けサービスの品質保証(SLA:Service Level Agreement)は、信頼と契約を支える根幹です。サービス停止や障害への対応が企業価値に直結する今、安定稼働を保証する目的での変更管理・リリース管理が求められています。
加えて、国の制度的な枠組みも整いつつあります。経済産業省が策定した「デジタルガバナンス・コード(DGC)」では、企業がデジタル活用と内部統制を両立するための基本方針が示されており、経営層主導でITガバナンスへの取り組みが推進されるようになりました。
企業価値の向上と社会的信頼の維持を実現するためにも、両方の継続的な整備・運用が今後ますます重要になるでしょう。
※参考:経済産業省.「デジタルガバナンス・コード3.0」.https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc3.0.pdf ,(参照2025-10-15). -
変更管理とリリース管理の主な機能
変更管理とリリース管理は、どちらもITIL(IT Infrastructure Library)で定義された中核プロセスであり、システム変更を計画的かつ統制的に管理する機能を持っています。それぞれの基本機能と役割を具体的に見ていきましょう。
変更管理の基本機能
変更管理は、システムやサービスへの変更に伴うリスクを抑えつつ、変更を計画的に実施・統制する管理活動です。主な機能は次の通りです。
変更要求
最初に行われる変更要求は、担当者や開発部門から変更の要求を正式に受付、登録することです。変更の目的や範囲、関わる対象(システム、ユーザー、業務プロセスなど)を明確にします。
影響分析
登録された変更要求に対して関連システムや構築アイテムの依存関係などを確認し、ダウンタイムやリスクなどを評価します。
CAB(変更諮問委員会)
CABは変更の可否を決定する証人プロセスであり、変更を可視化・標準化する重要な機構です。関係部門の代表やグループが参加し、情報をもとにリスク評価・優先順位付け・利益など十分に検討し、最終的な判断を行います。
変更の実施・レビュー
承認後は、変更実施計画に基づき作業を進め、監視・検証を経て事後レビューを行います。このレビューでは、結果の評価や再発防止策の検討が行われ、ナレッジとして蓄積されます。
リリース管理の基本機能
リリース管理は、変更管理で承認された変更を安全かつ確実に本番環境へ展開するためのプロセスです。次のような機能が挙げられます。
計画の策定
計画の策定では「どの変更を、いつ、どの環境に展開するか」を明確にする作業です。工程の構成や節目となるマイルストーン、担当責任、スケジュール、期限を整理し、構成アイテム(CI)を単位としてリソースをパッケージ化します。
テストの実施、展開
テストと展開の段階では、パッケージ化したプロダクトを事前に定義されたスケジュールと手順に基づいて展開(デプロイ)します。
検証・レビュー
検証・レビューは、リリース後の稼働状況をモニタリング・評価する機能です。問題が発生した場合に備えて、ロールバック(元の状態への復旧)手順を明確にしておくことも重要です。
ITILでは、このプロセスを「計画」「展開」「検証」の3段階で構成します。近年では、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)との連携により、テストやデプロイの自動化が進み、より迅速で安全なリリースが実現されています。 -
変更管理とリリース管理を導入するメリット
変更管理・リリース管理の導入は、リスク対策にとどまらず継続的なビジネス価値の創出と運用品質の向上にもつながります。ここでは、具体的な導入メリットを4つの観点から紹介します。
トラブルを防ぎ、生産性向上につながる
変更管理とリリース管理を導入するメリットは、システム変更によるトラブルを未然に防ぎ、作業の生産性向上につなげられる点です。
変更管理では、変更要求の受付からレビューまでを一元管理することで、影響範囲の見落としやテスト不足といったヒューマンエラーを削減できます。
また変更が本当に必要か、過去に同様の変更がないか、他のシステムへ影響しないかを確認することで、不要な作業や障害リスクの抑制が可能です。引き継ぎや共有がスムーズになり、属人化を防げる
変更管理・リリース管理を導入すると、変更内容・承認履歴・実施記録などをシステム上で一元的に管理できます。その場合、担当者が変わっても業務の引き継ぎがスムーズに行え、特定の個人だけが手順や背景を把握している、いわゆる属人化の防止につながります。
さらに変更履歴が可視化されることでチーム全体が同じ情報を共有でき、コミュニケーションが活性化する効果が期待できます。判断・対応もスムーズになり、抜け漏れや認識のズレも発生しにくくなります。結果として作業精度も向上し、運用の一貫性と組織全体の品質を維持できる体制を実現できるでしょう。監査や法令対応がしやすくなる
変更管理とリリース管理の導入・運用は、前述したように変更内容の承認、記録、履歴が残ります。監査や法令対応時には、これらを監査証跡として活用できるため、高い透明性を確保できるのが大きな利点です。
昨今の経営環境ではガバナンス強化が求められており、経済産業省が策定した「デジタルガバナンス・コード(DGC)3.0」では、企業経営における説明責任・透明性・内部統制の重要性が明確に示されています。
またJIPDEC(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)の調査によると、ISMSやプライバシーマークなどの第三者認証を取得した企業の多くが「取引先からの信頼向上」や「社内のセキュリティ意識の改善」に効果があったと回答しています。
変更管理・リリース管理は企業のコンプライアンス基盤を支える重要な業務の仕組みともいえるでしょう。
※参考:経済産業省.「デジタルガバナンス・コード3.0」.https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc3.0.pdf ,(参照2025-10-15).
※参考:JIPDEC.「ITレポート 企業IT利活用動向調査2025」.https://www.jipdec.or.jp/archives/publications/cmchdt0000002pup-att/J0005194.pdf ,(参照2025-10-15).開発と運用がつながり、スピーディに改善できる
変更管理を単なる統制プロセスとしてではなく、継続的改善(Continual Improvement)を支える仕組みとして活用することで、開発(Dev)と運用(Ops)の連携が強化されます。特に、変更管理を自動テストやデプロイメントを含む継続的デリバリー(Continuous Delivery)に統合すれば、変更の安全性とスピードを両立させられます。
結果として、企業は短期リリースサイクルの中でも品質を維持しながら、市場変化への迅速な対応と安定したサービス提供を実現できるようになるでしょう。 -
管理プロセスの選定ポイントと実施体制
ITサービスの安定稼働を維持し、変更に伴うリスクを抑えるには、適切な変更管理プロセスの設計と運用が欠かせません。ここでは、管理手順と実施体制の構築におけるポイントを順に解説します。
変更の多いシステムほど、管理ルールを細かく設定する
まず重要なのは、システムの変更頻度や業務への影響度に応じて、どの範囲をどこまで管理するかを明確に定義することです。安定的な運用を実現する第一歩となります。
変更管理では、リスクレベルに応じて「標準変更」「通常変更」「緊急変更」といった分類を設け、それぞれに適した承認・統制ルールを設定します。リスクの高い変更には承認フローを厳格にし、一方で日常的な更新は効率を重視するなど、バランスの取れた設計が求められるでしょう。リスクを見抜ける仕組みと承認の流れをつくる
変更によるITサービスへの影響を評価しリスクを抑えるには、変更内容のリスクに応じて承認レベルを最適化する仕組みが必要です。
ITILで定義される変更諮問委員会(CAB:Change Advisory Board)は、このプロセスの中核を担います。CABの役割は、変更におけるビジネス部門とIT部門の利害関係者のニーズを踏まえて変更内容の妥当性やリスク評価を行い、承認者の意思決定を支援することです。
承認後は、実施・監視・レビューという一連のサイクルを通じて変更の妥当性と課題を確認し、次の改善に反映させます。単なる承認手続きではなく、リスクを可視化し、意思決定を支える仕組みとしてCABを設計するのがポイントです。
また業務負荷を過剰に増やさずにリスクを抑えるには、管理基準を設け実務に合わせて柔軟に運用できる枠組みを整えることが重要です。これにより、業務効率の向上とリスク制御を両立した持続可能な変更管理が実現します。開発と運用が連携できる管理フローを整える
先述の通り、変更管理とリリース管理は本来別のフローですが、両者を連携させることで大きな効果を生み出します。特に開発(Dev)と運用(Ops)の間で情報をつなぐ環境を整えると、リリースの遅延や責任の分断を防ぐことが可能です。
近年では、DevOpsやCI/CDの仕組みと統合された変更管理の運用が一般化しており、自動テストや展開スクリプトと連携させることで、迅速かつ安全なリリースを実現しています。変更要求の受付から承認、展開、検証までを一貫して管理する体制は、開発スピードと安定性を両立させ、改善サイクルを止めずに品質が維持できる「運用と開発の橋渡し」が可能です。どの拠点でも同じ情報を見られる環境をつくる
拠点やチームが分かれていても、同じ情報をリアルタイムに共有できる環境づくりは、グローバル化やリモートワークが進む現代の企業運営には欠かせません。ITサービス管理(ITSM)の基本的な理念では、チーム間のコラボレーション促進と情報の可視化による業務効率が重要な要素として挙げられています。これらは意思決定の質を高め、ビジネス価値を拡大することにつながります。
変更やリリース情報を一元管理できる仕組みを整えれば、チーム間の判断基準が統一されるだけでなく、属人化を防ぎ、どの拠点でも同じ基準で安定した運用を実現できる強固な基盤を構築できるでしょう。 -
まとめ
変更管理とリリース管理の整備は、システムの安定稼働だけでなく、監査証跡としての活用や、開発と運用のスムーズな連携などを可能にします。これらのプロセスを定着させるには、情報共有と承認フローを一元化し、全体を見渡せる枠組みづくりが欠かせません。
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まずは現場の業務可視化と運用の標準化から始め、より安全で効率的な運用体制の構築を目指してみてはいかがでしょうか。