コラム
キャパシティ管理とは? 基本情報とITSMとの関連性を解説
目次
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キャパシティ管理とはプロジェクトのニーズを予測し、人的リソース、技術的リソース、財務的リソースを適切に割り当てるプロセスのことです。キャパシティ管理を怠った場合の懸念事項には、必要以上の投資による利益の減少、必要なリソースの不足などが挙げられます。安定したビジネスを継続し、最大限の利益を生み出すにはキャパシティ管理が不可欠です。
本記事ではキャパシティ管理の概要を押さえた後、キャパシティ管理の目的と重要性、主要プロセス、課題と解決策などを解説します。 -
キャパシティ管理とは:ITリソースの最適化を目指す重要プロセス
キャパシティ管理とは、SLA(Service Level Agreement)で設定された利用者との合意の実現を目指し、ITリソースのコスト、取得時期、展開などの最適化のために計画、調達、配備を行うことです。
利用可能なリソースを適切に割り当てることで、リソースを不足させないことはもちろん、過剰な投資を行わないようにします。またキャパシティ管理においては、システム需要が常に変動することも念頭に置いておかなければなりません。万が一、システム需要が予想と違った場合は都度対応する必要があります。
キャパシティ管理は多岐にわたりますが、パフォーマンス管理や負荷管理、需要予測、アプリケーションの見直しは特に重要です。リソース管理との違い
キャパシティ管理はリソース管理と同じように、リソースの可用性と割り当てに関わりますが、これらは似て非なるものです。
キャパシティ管理はプロジェクト計画フェーズの初期段階に行います。企業がプロジェクトの実行を完了できるだけの資産が十分にあるか評価する時期です。
一方、リソース管理はキャパシティ管理の後に行い、タスクや機器を割り当てたり、各チームと連携したりします。 -
キャパシティ管理の目的と重要性
キャパシティ管理を怠るとプロジェクトの失敗が懸念されるため注意が必要です。キャパシティが不足していても過多であってもビジネスに悪影響を与えるリスクがあります。起こり得るリスクの回避には、キャパシティ管理の目的と重要性を理解しておくことが大切です。
キャパシティ管理の目的と重要性を、以下の2つの観点から解説します。
● SLAの実現とコスト最適化
● システムの安定稼働と将来予測
それぞれ確認していきましょう。SLAの実現とコスト最適化
キャパシティ管理の主な目的の1つとして、SLA(Service Level Agreement)で設定された利用者との合意の実現が挙げられます。
SLAとはサービスの提供事業者とそれを利用する人との間で結ばれる規定です。この規定では保証するサービス内容、責任範囲、達成目標などが定められています。サービスの提供事業者がこの契約内容を実現できるかは、キャパシティ管理がポイントになってくるのです。
さらにキャパシティ管理には必要なリソースとコストのバランスを均一にし、コストを最適化する効果があります。リソースを特定の項目に過剰に割り当てれば、リソースが不足する事態は防げるでしょう。しかし余分に発生したコストで利益が少なくなります。リソースに適したコストを注ぐことで、不必要なコストを発生させずに利益を最大限得ることができるのです。システムの安定稼働と将来予測
近年、システムの安定稼働の重要性が高まっています。多くの企業がITに依存状態にあるため、システムが止まると業務がストップし、想定外の大きな損失が発生する企業は少なくないかもしれません。
キャパシティ管理を行うと利用可能なリソースや必要なリソースを的確に予想でき、システムの安定化を実現できます。
またシステムが安定的に稼働すれば従業員は自分の業務に集中でき、バグやサーバーの停止などの対応をしながらコア業務に従事する必要はありません。残業も回避しやすく、従業員は働きやすさを感じられるでしょう。企業にとっても残業代の支払いが発生しないためコストを抑えられるメリットがあります。
さらにキャパシティ管理を実施することで、データを根拠にした未来予測が可能です。正しい情報を参考にし、意思決定を行うことで大きなミスの発生を防ぎやすくなります。 -
キャパシティ管理の4つの主要プロセス
キャパシティ管理の重要性を理解していても、どのようなプロセスで管理を行うのか分からない人は多いかもしれません。まずは、キャパシティ管理の主要プロセスを押さえておきましょう。
キャパシティ管理の各プロセスには、以下の4つが挙げられます。
● 監視:リソース使用状況の把握
● 分析:データ傾向の予測と評価
● 計画:改善策の立案と戦略的検討
● 実装:計画の遂行と効果検証
それぞれ確認していきましょう。1. 監視:リソース使用状況の把握
キャパシティ管理を行う際、まずは監視します。監視してリソースの使用状況やパフォーマンスデータを確認します。
監視は運用担当者がシステムにログインし、リソースの使用状況、パフォーマンス状態を手動で記録するのが一般的です。しかしこの方法では手間や時間を要するため、監視ツールの活用をおすすめします。監視ツールでデータを自動収集すれば、監視担当者の負担を大きく削減できるはずです。2. 分析:データ傾向の予測と評価
次に収集したデータを分析していきます。これにより、データ分析の結果と予備知識を照らし合わせて今後のリソースの使用状況、パフォーマンスの傾向などを予測できるようになります。
データを正しく分析するには、生産性の変動を考慮し収集したデータの記録期間に気を付けなければなりません。また各データの最小値、最大値、平均値を把握しておく必要があります。
これら一連の作業を行うことで将来のシステム負荷を予測し、リソース不足などのトラブルが発生する前に対策を施せるようになります。ビジネスを止めることなく、スケジュールに従って円滑に進められるでしょう。
ただしデータ傾向の予測と評価を行うには、予備知識や分析スキルを有する人材が不可欠です。とはいえ、このような人材が社内にいない場合もあるでしょう。分析や予測は分析レポートを自動生成する監視ツールでも行えるので、必要に応じてツールの導入を検討してみると良いかもしれません。3. 計画:改善策の立案・検討
監視と分析の結果から改善点を導き出せたら、改善策の立案・検討を行います。改善が必要な箇所や、キャパシティが将来不足すると懸念されるものはリスク回避の方法を検討し、安定的なサービスの提供を長期的に継続できるようにします。
改善策の立案・検討ではメモリーやディスクの増加、サーバーの増設、既存システムのチューニングを計画するケースが多いです。
直近の課題の解決や短いスパンにおけるリスク回避といった視点ではなく、自社の中長期的な安定の実現を目標に、立案と検討を進めましょう。
さらにSLAで締結したサービスレベルをよく確認し、クライアントが納得する品質のサービスの実現を目指さなければなりません。SLAで締結したサービスレベルに満たなかった場合、自社の信頼が下がることもあります。4. 実装:計画の遂行と効果検証
改善策を立案・検討したら、その遂行に移ります。この段階で各種設定を新しく変更するのであれば、正式な変更管理プロセスに従わなければなりません。ITシステムの環境を変更すると、サービスが停止したり、予期せぬ再起動が発生したりする可能性があります。場合によってはユーザーに説明する必要もあるでしょう。生じる可能性があるリスクを想定し、早急に対応できるよう準備しておかなければなりません。
計画遂行の完了後は監視を再び行い、ITシステムがきちんと稼働しているか、目標とするサービスレベルを維持できているかを確認していきます。不適切な数値を発見した場合、再度修正したり、分析・計画をやり直したりしなければなりません。 -
キャパシティ管理におけるKPIの設定
KPIとはKey Performance Indicatorの略語で、日本語では重要業績評価指標と呼ばれています。最終的なゴール達成までの必要なプロセスを評価し、数値や数量で表す指標を指します。
キャパシティ管理のKPIは、どのような方法で設定を行うのでしょうか。
以下、キャパシティ管理におけるKPIの設定について2つの観点から解説します。
● 主要な監視対象データ
● KPI設定のポイントと注意点
それぞれ確認していきましょう。主要な監視対象データ
キャパシティ管理では、以下のような監視対象データをKPIとして設定しましょう。
● ディスク
● 実メモリー使用率
● ネットワークトラフィック
● 仮想メモリー使用率
● CPU使用率
● サービスへのアクセス数
● トランザクション応答時間
ただしここで紹介したものは一例に過ぎないため、システムの利用目的、業種などに応じて確認してください。KPI設定のポイントと注意点
KPI設定では運用管理者の負荷を考慮し、KPIの見直しや追加、変更などを適宜行わなければなりません。またシステムの利用目的、ビジネスモデルや業種によって設定すべきKPIは異なるので注意してください。
KPIは現実的な達成数値を設定しましょう。現実的な数値と乖離した設定だと、従業員のモチベーション低下につながる可能性があります。ただし簡単に達成できる数値に設定すると、従業員は力を発揮しにくくなるので注意が必要です。 -
ITILにおけるキャパシティ管理の位置付け
キャパシティ管理はITILにおいてサービス・デザインに位置付けられています。キャパシティ管理は主に、事業キャパシティ管理、サービス・キャパシティ管理、コンポーネント・キャパシティ管理の3つに分類されています。以下、これら3つがどのようなものなのか確認していきましょう。
● 事業キャパシティ管理
事業キャパシティ管理ではITサービスにおける事業部門の必要性や事業計画から、今後必要になるだろうキャパシティを実装できるよう整えます。キャパシティには人材やシステムなどがあります。
● サービス・キャパシティ管理
サービス・キャパシティ管理におけるサービスのパフォーマンスの監視と測定は、SLAとSLRにサービス目標値として記載されているサービスが対象です。これらのパフォーマンスについて監視と測定を実施し、パフォーマンスのデータを記録した後でデータの分析を実施します。
● コンポーネント・キャパシティ管理
コンポーネント・キャパシティ管理を行うことで、将来発生する可能性が高いトラブルを発見し、リスク回避が可能です。対象はCPU利用率、メモリー使用量などのITインフラを構成する各コンポーネントです。これらの使用率、キャパシティ、パフォーマンスの状態などを確認します。ITILフレームワークの概要
ITILとは、Information Technology Infrastructure Libraryの略語で、ITサービスマネジメントの成功事例をまとめたガイドラインです。実際のシステム運営業務をITILに照らし合わせ、ギャップの分析を行うことで、効率的な問題を洗い出せます。ただしITILに記載されているからといって、必ず従う必要はありません。自社に適したプロセスや手順になるよう改善しながら、柔軟に活用するのがおすすめです。
ITILではITサービスを幅広く捉え、顧客に高い価値を提供できるようにサービスライフサイクルベースのアプローチを採用しています。ITILを構成するのはストラテジ、デザイン、トランジション、オペレーション、継続的サービス改善の5つであり、それらを総括するITサービスマネジメントに関する情報が存在します。 -
キャパシティ管理の実践における課題と対策
キャパシティ管理は円滑なビジネスにおいて不可欠であるものの、課題もあるのが現状です。従って、キャパシティ管理では課題を把握し、適切な対策が求められます。
キャパシティ管理の実践における課題と対策について、以下の2つの観点から解説します。
● 人材とスキルの確保
● 適切なツールの選択と活用
それぞれ確認していきましょう。スキルを持つ人材の確保
企業がキャパシティ管理を行うには、予備知識がある人材や管理スキルを保有する人材が必要です。とはいえ、いずれの企業でもこうした人材が在籍しているとは限らず、人材の確保が必要なケースは少なくありません。
そこで、キャパシティ管理のスキルがある人材が社内にいない場合は外部委託サービスの活用がおすすめです。キャパシティ管理のスキルを持つ人にスポット的にサポートしてもらえます。
またキャパシティ管理のスキルを持つ人材がいなくても、ツールを導入すると自社で行えます。ツールにはさまざまな種類があり、自社のニーズに合わせて選択が可能です。ITツールの利用が得意ではない人でも扱いやすいタイプも多くあります。適切なツールの選択と活用
企業はキャパシティの増減が予測されたら、適切な対策を早急に実施しなければなりません。前述したような人材が自社にいなくても、予算に応じた適切なツールを活用することで、キャパシティ管理に対応できるでしょう。
ビジネスが複雑化している現代社会では、SLAを遵守し質の高いシステムを維持するには監視が必須といえるでしょう。数多くのシステムを把握し、管理するには多くの手間や膨大な時間がかかるため、ツールを活用しながら取り組むことをおすすめします。
キャパシティ管理には、クラウド上で動作するソフトウェアやアプリを管理するクラウド管理ツール、ITSMを効果的・効率的に実施できるITSMツール、サーバーの稼働情報をチェックするサーバー監視ツールが適しています。これらのツールを活用することで、リソースと需要のバランスが取れていない分野や十分に活用されていない分野などを容易に特定でき、今後必要となるITリソースを把握できるでしょう。 -
まとめ
キャパシティ管理とは各種コストを把握し、適切に割り振ることです。キャパシティ管理をきちんと行えるかで、ビジネスの成功率や利益率が大きく変わるケースは少なくありません。またキャパシティ管理を適切に行えば、ビジネスを円滑に進められます。
とはいえ、IT人材が不足している昨今、キャパシティ管理を担当できる人材の確保は容易ではありません。また既存の従業員が対応する場合、担当者の負担の増大が懸念されます。
このような点から、キャパシティ管理を短時間、かつ的確に行うにはツールの活用がおすすめです。
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