コラム
AIをITSMに活用することは可能? 生成AIによりITサービス管理に起こりうる変化と課題を解説
目次
-
社会におけるあらゆる領域でAIが活用されている昨今、生成AIが注目を集めています。
生成AIとは機械学習の技術を駆使し、画像やテキスト、音声などを生成する人工知能の技術です。生成AIを活用することで業務の効率化、品質の維持などビジネスにおけるさまざまな部分でメリットを享受できると期待されています。
本記事では生成AIの概要を押さえた上で、生成AIについてITサービス管理で注目される背景、導入するメリット、活用例などについて解説します。 -
生成AIとは何か
生成AIとは機械学習の技術を活用して画像やテキスト、動画などを生成する人工知能の技術のことです。
生成AIはデータのパターンを学習し、既存のものとは別の新規コンテンツを生成できます。その直感的な操作性と応用力の幅広さにより、近年注目を集めているのです。
従来のAIと生成AIにおける大きな違いは、生成AIの創出能力にあります。従来のAIは学習済みのデータに基づき、出力し得る情報の中から最適な回答を選出する機能に限られていました。一方、生成AIは新しいコンテンツをゼロから創造することが可能です。
これまでは新しいものの創造は人間のみが可能でしたが、生成AIは人間のようにオリジナルのコンテンツを生み出すこともできます。創造性を要する作業を自動化できることからも、多くの分野での応用が進んでいるのです。 -
生成AIがITサービス管理で注目される背景
生成AIが注目されていますが、その背景として主に以下の2つが挙げられます。
● ITサービス運用の複雑化
● 専門知識のある人材の不足
それぞれ確認していきましょう。ITサービス運用の複雑化
IT社会といわれる昨今、企業におけるさまざまな部分にITが導入されています。
デジタル化の進展、ネットワークの急速な拡大、オンプレミスとクラウドのハイブリッドな活用シーンが増えることにより、IT運用はこれまで以上に複雑化し、運用部門の負担は増大しています。こうした状況下で、監視対象機器やアプリケーションの増加、最新のIT技術への対応の必要性が増しているのです。
生成AIを活用すれば、複雑な業務も数秒から数分以内に完了できます。
従業員の業務負担が軽減され、残業時間削減にも効果的です。また空いた時間を活用して、新規ビジネスを立案することもできます。専門知識のある人材の不足
少子高齢化による労働人口の減少により、IT人材の不足が深刻な問題となっています。
近年、少子化対策だけでなく、小中学校におけるIT学習も普及しているものの、この問題を早急に解決することは難しいのが現状でしょう。
このような状況において生成AIによる人手作業の自動化は、限られた従業員で業務を円滑に進めるに当たって不可欠であると考えられます。人間の力だけでは対応しきれない業務を生成AIの手を借りて行うことのニーズが今後さらに高まるはずです。 -
生成AIをITサービス管理に導入するメリット
生成AIをITサービス管理に導入することで得られるメリットとして、主に以下の3つが挙げられます。
● 24時間365日の稼働
● 担当者の業務効率化と生産性の向上
● ITサービス管理業務の均一化
● データに基づく意思決定を支援
それぞれ確認していきましょう。24時間365日の稼働
AIは24時間365日稼働するためダウンタイムを削減し、生産性を高められます。これによりITスタッフは人間にしかできない業務に集中することが可能です。空いた時間を使って新しい企画を検討し、ビジネスを拡大させていくこともできるでしょう。
また24時間365日稼働のAIは顧客対応にも役立ちます。例えばチャットボットは社内外のユーザーからの問い合わせ対応を24時間365日サポートします。ユーザーは時間を問わず自分が知りたい回答を得られ、悩みを早急に解決することも可能です。また企業側も問い合わせ担当者を24時間365日カバーできる分を雇う必要がなく、コスト削減にもつながるはずです。
さらにAIはサーバーやネットワーク機器などの資産の予知保全プログラムとしても一部使えます。人間が簡単なメンテナンスタスクに介入する機会が減り、担当者の業務負担を軽減できます。担当者の業務効率化と生産性の向上
AIが稼働し、人間の業務をサポートすることで、従業員はコア業務に集中できたり、人間の手でしか行えない業務に集中できたりします。
生成AIは単純作業や繰り返し必要な作業を特に得意としているため、簡単なメンテナンスタスクに人間が携わる機会は少なくなるでしょう。
生成AIを活用し、データ生成に関わる作業の生産性を向上させることで、調査から思考、そして入力までに要する多大な作業を数秒から数分以内に完了できます。
会話の文字起こし、議事録の作成、ビジネスメールの作成、業務マニュアルの文章生成は生成AIと相性がとても良いです。ITサービス管理業務の均一化
人間が作業を行うと業務の品質に差が出ます。例えば熟練者と新人では同じ業務であっても品質が同じになるとは限りません。
生成AIを活用することで品質を均一化することが可能です。生成AIは機械的に処理を行うので、品質にバラつきが出ることは基本的にありません。
単純作業や繰り返し必要な作業は生成AIが得意とする領域のため、こうした作業は生成AIに特に任せやすいです。データに基づく意思決定を支援
AIはITサービスデータのトレンドやパターンの分析が可能です。データに基づき、潜在的な問題を事前に特定できます。
こうしたAIの特長は意思決定にも役立ちます。
例えば一つの意思決定を行う際は会議を何度も開催し、参加者の意見をまとめていかなければなりません。そこでデータドリブンで経営を行えば、データに基づいたアクションを導き出すことが可能です。
また会議では経営層や熟練者の勘に頼られることもありますが、AIを活用すれば、客観的なデータに基づいて判断できます。
また収益に関する意思決定を行う際にもAIは役立ちます。
AIを使うことでどこに問題点があるのか客観的データとして明確にできるため、適切な施策を見出しやすくなるはずです。 -
ITサービス管理におけるAIの活用例
近年、ITサービス管理においてAIの活用が増えていますが、ITサービス管理におけるAIの活用例として、主に以下の4つが挙げられます。
● チャットボットの自動返信
● 障害時の対応
● ナレッジ管理
● 運用自動化コードやドキュメントの作成
それぞれ確認していきましょう。チャットボットの自動返信
チャットボットを使うことで、ユーザーからの問い合わせやトラブル対応を自動化できます。
ユーザーが質問や問題の報告をすると、生成AIは文書検索エンジンやヘルプデスクの回答履歴などから回答を生成し、ユーザーに返信します。ユーザーはスマートフォンやパソコンを使い、いつでもどこでも問題を解決することが可能です。
例えば「自社の育休の取得率はどのくらい?」といった質問には、関連する社内規定を参照し、迅速に回答を提供します。障害時の対応
生成AIはマニュアルや過去の対応、蓄積されたナレッジなどを参照し、障害時の対応を迅速に行います。
また障害の原因特定やトラブルシューティングに時間を要するケースであっても、生成AIは診断結果や解決案を示すことが可能です。
さらに生成AIにはインシデントなのか、サービスリクエストなのか判断するチケット分類も任せられます。
これまでトラブル対応に膨大な時間や人手が必要だった企業も、対応に要する負担の軽減を実感できるはずです。ナレッジ管理
ナレッジ管理とは各社員が共有している技能やノウハウをマニュアル化し、組織内で共有することです。これにより業務効率化を目指します。
生成AIはナレッジが利用可能な場合にリポジトリからソリューションの提供、もしくはクラウドを検索して関連するソリューションの提案が可能です。利用できない場合は新しい記事を作成し、ITエージェントに解決策を提供して円滑な提案を提供します。
また生成AIは各従業員のニーズに基づき、ナレッジの提供をパーソナライズして検索の精度を改善できるため、欲しい情報の要点のみを確認できます。情報収集に要する時間を大幅に削減可能です。運用自動化コードやドキュメントの作成
生成AIはソースコードのパターンや構造、関数やメソッドの利用方法、ライブラリの使い方を学習し、それに基づいて運用自動化コードの生成が可能です。開発者は生成AIが生成した運用自動化コードの検証を行い、修正を施すことで運用自動化のための開発を迅速化できます。
また生成AIはドキュメントの作成も可能です。大量の情報を解析し、ドキュメントを自動生成できるため従業員の業務負担を軽減できます。操作マニュアルや運用レポートの草案の作成の自動化も実現できるでしょう。 -
生成AIをITサービス管理に導入する際の注意点
生成AIをITサービス管理に導入する際の注意点として、主に以下の3つが挙げられます。
● プライバシーなどの問題
● 導入コスト
● 創造性の限界
それぞれ確認していきましょう。プライバシーなどの問題
生成AIを活用した場合、プライバシーが課題となるケースもあるので注意が必要です。
例えば、ChatGPTなどの生成AIモデルは、インターネット上の情報やユーザーから提供されたデータを使用し、それに基づいて創作作業を行います。個人情報や機密情報を生成AIに誤って入力するとその情報がデータベースに保存され、不特定多数と共有され、情報が外部に漏えいする危険性があります。
プライバシーに関する情報、自社や取引先の機密情報を守るには、ユーザーのリテラシーと適切な構築環境が不可欠です。
重要な情報が外部に漏れると自社に大きな損害が生じるだけでなく、顧客や取引先も対応に追われることになります。導入コスト
自社にAIを導入する場合、さまざまなコストが発生します。導入のコストはもちろん、トレーニングやメンテナンスにもコストが生じるため、AIを導入したら費用を長期的に払い続けなければなりません。
また技術者はAI対応システムでの仕事の効率性を高めるために、新しいスキルを常に取得する必要があります。AIを日々の業務に取り入れ、その利点を最大限引き出すには時間とコストのかかるトレーニングが必要です。このトレーニングは人間にも知識が必要なので、担当者は学習に時間を費やさなければなりません。
さらにより高度なAIシステムには高価な物もあります。AIは現段階において解決できていない問題もあるため、メンテナンスを適度に行い、スムーズに動作できる状態を保たなければなりません。このとき、サービスが中断されることもあるので、中断中における業務のストップなどの懸念もあります。
近年においてはさまざまなAIシステムがあり、それらの中にはリーズナブルなAIシステムも少なくなく、多くの企業にとって利用のハードルが下がりつつあります。しかしそれでも、中小企業を中心に多くの企業にとって導入のハードルは高いでしょう。創造性の限界
AIは既成概念にとらわれることなく、問題に対する独自の解決策を編み出すことは現状できません。
AIは存在するデータがあればコンテンツを作成できるものの、ゼロから何かを生み出すのは不可能です。このため、人間の創造性のレベルには満たないと考えられています。さらにフェイクコンテンツを生み出すこともあるため、AIが生み出したものを人間が確認し、内容の検証も必要です。
今後、AIはアルゴリズムが人間の行動を模倣し、より理解できるようになる見込みはあります。しかし専門家の多くはAIが人間のような創造性に達するのはまだまだ先だと考えています。AIは何かを新しく創出することだけでなく、イレギュラー対応も苦手としているため、人間が従事している全業務を代替できるようになる日は遠いのかもしれません。 -
まとめ
企業が抱えるさまざまな課題を、生成AIは解決に導けます。業務の効率化や人手不足などに悩んでいる企業は、生成AIの導入について検討してみてください。
Smart StageはITIL®に準拠した管理プロセスと機能を網羅したサービスで、インシデント管理やイベント管理、ベンダー管理、サービスサポート管理など数々の機能が搭載されています。
多彩な導入プランがあり、セルフ導入も可能なユーザーフレンドリーツールなので導入の負担も最小限に抑えることが可能です。
業務効率化の実現に向けてITSMツールを取り入れ、生成AIも含めて活用していくことをおすすめします。